おもにBLD

スピードキューブ、特に Blindfolded (BLD) の記事を書きます。

UF/UFRバッファ(およびFU/UFRバッファ)のメリット

こんにちは、酢酸ことSakakiです。

この記事では、UF/UFRバッファ(およびFU/UFRバッファ)のメリットについて述べます。

以下では事実や主張を明確に述べるために常体(である体)を使用します。

Abstract

2020年現在、世界のトップ層の3BLDのバッファ採用率を見ると、UF/UFRバッファを選択している選手が多いことが分かる。そして、日本においても2018年ごろからUF/UFRバッファを使用している選手が多くなってきている。

しかし、UF/UFRバッファを採用する理由やメリットに焦点を当てた日本語の記事は存在していない。UF/UFRバッファの手順に関する記事やTwitterの投稿でUF/UFRバッファのメリットについて言及されることはたびたびあるものの、複数の媒体に散在しているため、UF/UFRバッファにしようか迷っている競技者が容易に参照することができないという問題がある。

そこで、この記事ではUF/UFRバッファの持つメリットを分かりやすく整理して提示する。別の人による説明がある場合はそれを引用し、もし引用元で根拠が説明されていない場合は必要に応じて根拠を補強する。

UF/UFRバッファのメリットは「アルゴリズム的な特徴」と「手順を学ぶ際の環境」の2つに大別できる。

UF/UFRバッファが持つアルゴリズム的な特徴は以下の2点である。

  • DF/UBLバッファに比べてR, U, E系の回転が多く、速く回せること
  • MBLDにおいて、エッジ分析→コーナー分析→エッジ実行→コーナー実行の順に進める時に、パリティの場合でもDF/UBLバッファに比べてロスが少ないこと

手順を学ぶ際の環境についてのメリットは以下の2点である。

  • 動画または対面で、指遣いのついての情報を得やすいこと
  • 世界においてワールドレコードを更新するために手順の改善が行われていること

ここまで述べてきた特長は、FU/UFRバッファも兼ね備えている。FU/UFRバッファとUF/UFRバッファは3-styleの回転とパーツ移動としては同一なので、実行パートに関しては違いがない。違いが現れるのは分析パートである。UF/UFRバッファとFU/UFRバッファのどちらを選んだほうがよいかは、それまでに競技者が慣れ親しんできた解法によって変わってくる。

目次

はじめに

2020年現在、世界のトップ層の3BLDのバッファ採用率を見ると、UF/UFRバッファを選択している選手が多いことが分かる。BLD Buffersは2020年現在での単発世界ランク (以下WR) 100位までの選手が使用しているバッファをまとめたものである。この表は随時更新されるので、2020月11月時点のスナップショットとしてのWR20までのスクリーンショットを示す。この表によればUF/UFRバッファの採用者は100人中48人である。 日本においても2018年ごろからUF/UFRバッファ (および、FU/UFRバッファ *1 )を使用している選手が多くなってきている。

BLD buffers (2020/11/30時点)

しかし、UF/UFRバッファを採用する理由やメリットに焦点を当てた日本語の記事は存在していない。UF/UFRバッファの手順に関する記事やTwitterの投稿でUF/UFRバッファのメリットについて言及されることはたびたびあるものの、複数の媒体に散在しているため、UF/UFRバッファにしようか迷っている競技者が容易に参照することができないという問題がある。

そこで、この記事ではUF/UFRバッファの持つメリットを分かりやすく整理して提示する。他所に別の人による説明がある場合はそれを引用し、もし引用元で根拠が説明されていない場合は必要に応じて根拠を補強する。

UF/UFRバッファのメリット

UF/UFRバッファのメリットはアルゴリズム的な特徴と手順を学ぶ際の環境の2つに大別できる。

アルゴリズム的な特徴

UF/UFRバッファが持つアルゴリズム的な特徴は以下の2点である。

  • R, U, E回転が多く、速く回せる
  • MBLDにおいて、エッジ分析→コーナー分析→エッジ実行→コーナー実行の順に進める時に、パリティの場合でもDF/UBLバッファに比べてロスが少ない

R, U, E回転の割合

まずは、R, U, E回転の割合について。

1件のツイートを引用する。

つじりさんやきっくん先輩に教えてもらったUFバッファの利点は

・4手の手順(E,R2系統)にセットアップで持ち込みやすいから手順が短く、指遣い次第で爆速

・U面のステッカーとバッファがU回転でインターチェンジ可能だから回しやすい手順が増える

・楽しい

これについて検証しよう。

[中略] から手順が短く、指遣い次第で爆速

以下の4つの手順表何人かのバッファごとの平均手数を表にまとめた。手順表に書いてある"executed as..."のような説明書きを除去した後に、cube-notation-normalizer *2 を使って正規化した。ただし、持ち替えも1手と見なした。

競技者・バッファ エッジ コーナー
DF_UBL_Graham *3 8.79 11.73
DF_UBL_Ishaan *4 8.99 11.60
UF_UFR_Graham *5 8.86 11.46
UF_UFR_Max *6 9.03 11.74
UF_UFR_Massan *7 9.03 11.81

これを見ると、UF/UFRバッファにしたことにより手数が短縮されたわけでは ない ということが分かる。

4手の手順(E,R2系統)にセットアップで持ち込みやすい

エッジで (E系 R2 E系) を含む手順の数を数えたところ、次の表の結果となった。

競技者・バッファ エッジで (E系 R2 E系) を含む手順の数
DF_Graham 38手順
DF_Ishaan 26手順
UF_Graham 57手順
UF_Max 51手順
UF_Massan 55手順

選手によって多少のばらつきはあるが、UFバッファの手順はDFバッファの手順のおおむね1.5倍~2倍の (E系 R2 E系) 手順を含んでいる。

ここで、なぜE回転が速いのかについて、いくつかの手順を見ながら少し考えてみよう。結論としては、E回転はホールドを維持しつつU面と同じように人指し指・中指で回すことができるので速い。

UF-BL-RD
[R' E2: [R U' R', E]] = R' E2 R U' R' E R U R' E R

この手順は、左手親指薬指でD面をホールドして、左人指し指中指をU, E回転に使うことで途中のホールドし直しをせずにスムーズに回すことができる。

比較のため、キューブをz2した後、右手中心に回せるように左右反転してDFバッファの手順として捉えると以下のようになる。

DF-BL-RU
R E2 R' D R E R' D' R E R'

E回転があるものの、バッファがD面にあるためD回転が登場し、左手でホールドし続けることができないので回しにくい。

次は、DFバッファにとって回しやすいM列で回す手順に変換してみよう。

DF-UL-BR
U' M2 U R' U' M U R U' M U

(U R' U')の後だと右手ではMが回せないので左手の薬指を使わざるを得ないが、窮屈な感じになって回しにくい。Mを(Rw' R)で回すなら左手をしっかりホールドしたまま回すことができるが、1手余計にかかってしまう。

違う手順になるが、このMをM'にすると左手をホールドしたまま回すことができるようなる。

DF-BD-BR
U' M2 U R' U' M' U R U' M' U

では、UFバッファに戻って、UF-BL-RDの手順の中のEがE'になったらどうなるかを見てみよう。

UF-BL-LF
R' E2 R U' R' E' R U R' E' R

D面とR面をしっかりホールドできているので、EがE'になっても回しやすい。MはM'より回しにくいが、EとE'はどちらも回しやすいのだ。

元のツイートの確認に戻る。

U面のステッカーとバッファがU回転でインターチェンジ可能だから回しやすい手順が増える

このことを検証するために、手順中のU, U', U2インターチェンジの手順数 *8 を調べた結果を以下の表にまとめる。

競技者・バッファ エッジ コーナー
DF_UBL_Graham 17手順 131手順
DF_UBL_Ishaan 14手順 146手順
UF_UFR_Graham 74手順 136手順
UF_UFR_Max 74手順 130手順
UF_UFR_Massan 80手順 155手順

UBLバッファとUFRバッファは同じU面にあるので大して変わらないが、DFバッファとUFバッファを比較すると5倍程度であり、U回転でのインターチェンジをしやすいことが裏付けられた。

楽しい

検証できないのでこの記事では取り扱わない。

MBLDでのパリティ処理

MBLDでパリティがあった場合に、UF/UFRバッファはDF/UBLバッファに比べて少ない手数で処理ができる。

MBLDにおいては、場所にイメージを置き、実行時にそのイメージをその順番で想起して実行していくので、エッジ→コーナーの順に分析し、同じくエッジ→コーナーの順に実行する。

3BLDの場合はエッジを音記憶で実行するならコーナー→エッジ→エッジ→コーナーの順になるので、エッジを分析する時点で既にパリティの有無を知っている。よって、交換分析 *9をすることができる。

MBLDの場合は最初にコーナーを分析していないので、パリティかどうかを知らない。最初にコーナーの文字数だけ数えればそれを知ることができるものの、時間のロスなのでやらないこととする。この条件下でパリティに対処するには、もしエッジ分析時に奇数文字で終わった場合には最後に「UR」の文字*10を足して偶数文字にすればよい。これで、最終的にURパーツとUFパーツが入れ替わった状態となり、コーナーパリティ処理で元に戻る。

DF/UBLバッファでも同様に、エッジ終了時に奇数文字だった場合は最後に「UB」「UL」「UB」 の3文字を付ければ同じことができる。

比較すると、DF/UBLバッファはエッジの最後の1文字のために、「DF-最後-UB」「DF-UL-UB」の2つの3-styleを回す必要がある。一方、UF/UFRバッファなら「UF-最後-UR」の1つの3-styleを回すだけでよいので、相対的に1手順ぶん得をしている。これは、パリティ手順で交換されるエッジパーツにバッファが含まれているおかげである。

MBLDにおけるパリティ時のテクニック(weak-swap)はGraham Siggins選手が動画シリーズを投稿している。

Fixing Parity in MultiBLD Pt. 1: Intro & the Basics - YouTube

H氏さんが要点を翻訳しまとめたものが以下の2つのツイートである。

上記の動画・ツイートがよくまとまっているので、この記事ではこれ以上説明しない。

手順を学ぶ際の環境についての特徴

手順を学ぶ際の環境についてのメリットは以下の2点である。

  • 指遣いの情報を得やすい
  • 世界においてワールドレコードを更新するために手順の改善が行われている

指遣いの情報を得やすい

【動画情報】

Full UF commutators execution - YouTube (by Graham選手。fullではなく120手順)

Full 3 Style Commutators (UF/UFR) buffers - YouTube (本名不明。 文字通りfullの818手順)

UFR-xyz UF-UR Parity Algs+Fingertricks

Full 3-Style Edge Commutators: UF-UR-xy

Full 3-Style Edge Commutators: UF-UB-xy

【対面情報】

日本でもUF/UFRバッファを選択している選手が多くなってきており、指遣いを相談できる。

世界においてワールドレコードを更新するために手順の改善が行われている

仮に回しにくい手順があったとしても、しばらくしたらそれが別の良い手順に置き換わっている可能性があるので、我々はそれに追従していくだけでいい。

UF/UFRバッファとFU/UFRバッファ

ここまででUF/UFRの特長を説明してきたが、それらの特長はFU/UFRバッファも兼ね備えている。UF/UFRバッファとFU/UFRバッファは3-style手順のパーツの移動は全く同じで、その移動をどう捉えるかが違うだけである。 全く同じ手順が使えるので、実行パートについてはこれらの2種類のバッファに違いは無い。変わるのは分析パートである。

例えば、以下のキューブの状態[R' U' E' R: [E, R2]]という手順によって完成状態にできる。この手順をUFバッファで解釈すると UF-FR-RUとなり、FUバッファで解釈すると FU-RF-URとなる。

FUバッファのほうがオススメな場合

これまでに経験してきた競技や解法によっては、FUバッファのほうがオススメな場合がある。

まず、3BLDのDFバッファの 3-styleをやったことがあるなら、FUバッファのほうがオススメである。 DFバッファの手順でM'でFUにインターチェンジする手順がいくつかあるので、FUバッファにしておくとそのままの感覚 (認識) で手順を流用できる。

また、4BLDや5BLDのウィングエッジをr2法でやったことがあるならば、UFrステッカーではなくFUrステッカーにナンバリングの文字が振ってあるので、そのナンバリングに合わせてFUバッファにしておくのがオススメである。

もしUFバッファにしてしまうと、4BLDや5BLDのナンバリングをUFrステッカーに文字が振られるように変える必要があり、これまでの4BLDや5BLDの分析の経験が使えなくなってしまう。

私は上記の理由により、UF/UFRバッファではなくFU/UFRバッファを採用している。ちなみに、4BLDのウィングエッジのバッファはFUrバッファである。

逆に、上記の事項に当てはまらないのであればUFバッファを選んだほうがよい。先述のBLD Buffersの表を見れば分かるように、UFバッファのほうが使用者が多い。そのため、UFバッファにしておくと他の人の記事を読む時やコミュニケーションの時にステッカーの読み替えをしなくて済むことが多い。

なお、FUバッファの特徴については以下の記事でも言及されている。

きゅーびんぐまっしゅるーむ FUバッファになりたい①

hinemosの3-style手順インポート

ところで、一般にFU/UFRバッファの人がステッカーの読み替えを求められる状況のひとつとして、他の人の3-style手順表を取ってきて使うというケースがある。例えば、他の人の手順表で UR ステッカーの列は RU ステッカーに換き換える必要がある。

しかし、拙作のツールhinemosの3-style手順インポート機能を使えばこの読み替えは不要である。ナンバリングをFUバッファで登録してからUF/UFRバッファの手順表をそのままコピーアンドペーストするだけで他の人の手順を取り込むことができる。

よって、hinemos上で練習するならば、FUバッファを選んだ場合の手間は非常に少ない。ぜひ自分のこれまでの経験を活かせるバッファを選択してほしい。

3-style手順表

「回転の割合」の表の脚注のリンクを参照。

特に、私はまっさん手順を以下の理由でおすすめする。

  • Max選手の手順をベースにしているので、速さが担保されている
  • Graham選手やMax選手に質問するより、まっさんさんに質問するほうが簡単
  • 2020年12月現在、手順表に間違い*11が含まれていないのでそのまま使える

入門解法

Orozcoメソッド

UF/UFRバッファに移行する場合、M2OPに代わる入門解法が必要となる。Orozcoメソッドは速さと簡潔さを両方備えていておすすめである。

解説記事: 中級者向け3BLD解法 Orozco Method - まっさんのブログ

また、上記記事のサポートとして、拙作のツールhinemos上でOrozco method手順表を提供している。このページは、上記記事に書かれている手順を各人のナンバリングで置き換えて表示する。ソルブの時にはRUやLFのようなステッカー名ではなくナンバリングで考えているが、そこからステッカーに戻す必要がなく、ナンバリングのまま手順を確認することができる。また、上記の記事はUFバッファを前提に書かれているが、hinemosの手順表はFUバッファにも対応しており、いちいちステッカーを読み替える必要が無いのが特長である。

hinemosのOrozco手順表

UFエッジ入門解法: M法

(2021/05/17追記)

エッジの入門解法としては、Orozcoメソッドの他には、うえしゅうさんが考案したM法という解法がある。

M法はM列に関する手順は特殊であるものの、その他のステッカーについてはM2法と同様にUBステッカーへのセットアップと逆セットアップを用いるため、M2法を使ってきた人にとってはOrozcoメソッドよりも導入しやすい。

(2022/05/24 URL移転につき修正) UFバッファ版に加筆修正されてました。 M法 解説 (初心者用UFバッファ解法) - uesyuu's Blog

UFエッジ入門解法: M2-M2法

(2021/05/17追記)

また、M法のM列手順を簡単にすることを目的に考えられた、Ma29KHさんのM2-M2法という解法が存在する。

M2-M2法について - Ma29KH’s diary

これはM2法のアレンジで、UFバッファで無理やりM2法をやるものです。M列手順が単純になることがどれ程のメリットになるのかはわかりません。皆さんの意見をもらいたいです。

とあるので、まずM法を試してみて、M列手順をどうしても難しいと感じた場合に、M2-M2法を検討してみるのがよいだろう*12

まとめ

この記事はUF/UFRバッファのメリットとして、「アルゴリズム的な特徴」と「手順を学ぶ際の環境」の2つを説明した。 この記事を読んでUF/UFRバッファ (およびFU/UFRバッファ) の採用者が1人でも増えれば幸いである。

なお、3-style手順の覚え方についてはSpeedcubing Advent Calendar 2020の1日目の記事に書くのでそちらをぜひ読んでみてほしい。

謝辞

この記事を書くにあたり、様々な面でまっさんさん(Twitter: @ms3bf)とH氏さん(Twitter: @cubeforworld)にご協力いただきました。

この場を借りて改めてお礼申し上げます。

*1:UFバッファとFUバッファは回転に関しては同一であるため、UFバッファが持つアルゴリズム的な特徴はFUバッファも備えている。そのため、以下ではUFバッファとFUバッファを区別して扱う必要が無い時にはUF/UFRバッファという表記に統一することにする

*2:https://www.npmjs.com/package/cube-notation-normalizer

*3:https://docs.google.com/spreadsheets/d/1-AnKGJMHN3SAOcZxem3XJ5tBm7Dk1dTRcZ7KcXYbGP4/edit#gid=1637124741

*4:https://docs.google.com/spreadsheets/d/1_jbYWfHAPnuICeSD2HtkJSHHbYHspilRsb097Fo08WA/edit#gid=179704021

*5:https://docs.google.com/spreadsheets/d/1-AnKGJMHN3SAOcZxem3XJ5tBm7Dk1dTRcZ7KcXYbGP4/edit#gid=1637124741

*6:https://docs.google.com/spreadsheets/d/16UbivKIag9ibXOJQaDQWKOQSn66s3EZBNYukN44YWQ8/edit#gid=1765999120

*7:https://docs.google.com/spreadsheets/d/1mHlpvaKb9Emi1ach6vsMcQwBY4mNSJ0ncn5fnVOzojE/edit#gid=337645627

*8:手順が[S: [A, B]]の形式ではなく S A B A' B' S' のように展開して書かれている場合を考慮し、 https://github.com/sakabar/hinemos/pull/687 のプログラムによって手順を[S: [A, B]]に変換した

*9:DF/UBLでの交換分析は交換分析法についてを参照

*10:FUバッファなら「RU」の文字

*11:例えば [U', R D R ] のような表記誤りや、順手順と逆手順が同じ手順になってしまっているケースなど

*12:ちなみに、私個人としては、うえしゅうさんのM法のほうが良いと感じた。