おもにBLD

スピードキューブ、特に Blindfolded (BLD) の記事を書きます。

2020年版・挫折しない3-style習得法 with hinemos

はじめに

こんにちは、酢酸ことSakakiです。

この記事は Speedcubing Advent Calendar 2020 の1日目の記事です。

昨日の記事 : 初日なので無し

明日の記事 : 2006NISH01さんの「ルービックキューブを解くプログラムを書いてみよう(後編)

この記事では、3BLDのタイムを縮めるための手順である3-styleを修得する方法のひとつをご紹介します。3-styleはコーナー・エッジ合わせて818手順もあり、ややもすると途中で挫折しかねないものです。818手順という手順数を減らすことはできませんが、私はその818手順への取り組み方を工夫することで挫折の可能性は変わってくると考えています。その手がかりとして、私は物事を覚える時のメカニズム、すなわち「記憶の原則」に着目しました。

私が開発しているツールである hinemos はこの記憶の原則に沿って練習することができるように作ってあります。この記事ではまず記憶の原則について説明した後、hinemosの実際の使い方を説明します。

想定読了時間は60~90分です。この記事は5分で読んでタイムが1秒縮まるようなTipsではありません。

想定読者

この記事の想定読者は、「3-styleを覚えてみたいと思っているBLDer」です。3-styleに興味があるならばタイムは問いません。私は、やる気や興味というものは生モノであり、やる気がある時にそのやる気を使い切るのが重要だと考えています。ですので、少しでも興味があるならば、今のタイムのことは気にせずに、記事を読んで理解を深めたり、手順を練習してみたりしてほしいです。

この記事で紹介している方法なら、3-styleを少しずつ身に付けていくことができます。そのため、全部一気に終わらせるぞというような気合いは必要ありません。

そもそも3BLDのやり方がわからないという方は、3x3x3目隠し M2/OP法 甘やかし編 概論から続くシリーズをお読みください。

この記事の構成とゴール

まず、話の前提となる3-styleについて説明します。次に3-styleを挫折せずに覚えていくために使う記憶の原則について説明します。そして最後に、記憶の原則に基づいてhinemosで練習する方法を紹介します。

この記事のゴールは以下の2つです。

  • 3-styleを覚える時に意識すべき記憶の原則が分かった状態
  • hinemosを使って3-styleを覚えていく方法が分かり、自分で進めていく姿がイメージできるようになった状態

3-styleとは

BLDの実行時間を減らすための方法は、以下の3つに分類できます。

  • 止まっている時間を少なくする
  • 指を速くする
  • 手数を減らす

3-styleはこの中の「手数を減らす」方法に属します。

なお、3-style自体は3BLDだけに限らず4BLD、5BLDでも使われる技術ですが、この記事では簡単のため3BLDのコーナー・エッジパートにおける3-styleに照準を絞って説明します。

手数

3-styleの手数について説明する前に、まずは比較のために入門解法の手数について確認しましょう。入門解法としてはOP/OP法やM2/OP法が主に使われていると思いますが、そのどちらの人にも読みやすいように、コーナーパートのOP法 (Old Pochmann法) について考えます。

OP法はバッファとターゲットの2ステッカーを入れ替える手順を繰り返すことで、目を隠した状態でのソルブを実現しています。 手数の観点では、コーナーOP法は (R U' R' U' R U R' F' R U R' U' R' F R) という変形Y-Perm + 前後で1~2手のセットアップと逆セットアップが入るので、1つのステッカーを正しい位置にするのに17手程度かかります。分析2文字ぶんだと2倍なので34手です。

この交換を効率化するのが3-styleです。3-styleは1つの手順の中でバッファ・ターゲット1・ターゲット2の3点、すなわち分析2文字ぶんの交換を行います。

手数は基本となる8手の手順にセットアップと逆セットアップが約2手ずつ入るので、コーナーだと平均約12手となります。 つまり、OP法に比べて34手から12手となり、手数を1/3近くまで削減することができるのです。

3-styleは手数は減らすことができるというメリットがある反面、覚えるべき手順の数が課題となります。OP法の場合、覚える必要のある手順数はターゲットとするステッカーの種類数です。すなわち、コーナーならバッファを除いたステッカーの種類数である21手順を覚える必要があります。

一方、3-styleは2つのステッカーの組み合わせぶん必要なので、コーナーなら 21 * (21 - 3) = 378手順必要になります。3を引いているのは、1つ目のターゲットと同じパーツは選ぶ必要が無いからです。

以上を簡単にまとめると、3-styleとは膨大な手順を覚えることによって手数を削減することができる手順群、ということになります。

記法

3-styleは [S: [A, B]] のような、他の競技ではあまり使われない記法で表現します。これは展開すると S A B (Aの逆手順) (Bの逆手順) (Sの逆手順)となります。例えば、 UBL-UFR-UFLの3点を交換する手順である[R' D' R U': [R' D R, U']]を展開すると以下のようになります。

[R' D' R U': [R' D R, U']]

=
(R' D' R U')
(R' D R)
(U')
(R' D R)の逆手順
(U')の逆手順
(R' D' R U')の逆手順

=
(R' D' R U')
(R' D R)
(U')
(R' D' R) 
(U)
(U R' D R)

= R' D' R U' R' D R U' R' D' R U U R' D R
= R' D' R U' R' D R U' R' D' R U2 R' D R

関連リンク

3-styleについてもっと知りたい方は、以下のリンクが参考になります。

課題と解決方針

前の節で説明しましたが、コーナーの3-styleは378手順を用意する必要があります。また、エッジは同様の計算により22 * (22-2) = 440手順必要になります。

3-styleの手順には理屈があるとはいえ、この818という量は開眼の3x3の基本手順であるPLL21手順・OLL57手順と比べて、まさに桁違いに多いです。

少しの手順であれば気合いと勢いで乗り切ることができるかもしれませんが、手順数がこんなに多いとそうはいきません。闇雲に取り組むと挫折してしまう可能性が出てきます。

挫折を回避するために、私は「記憶の原則」に着目しました。また、モチベーションを本質的な練習に充てるために、事前準備を簡略化する方法を提供します。

記憶の原則

覚える必要がある818という手順数を減らすことはできませんが、その818手順への取り組み方を工夫することで挫折の可能性は変わってくると私は考えています。私はその手がかりとして、物事を覚える時のメカニズム、すなわち「記憶の原則」に着目しました。この記事で掲げる原則は以下の4つです。

  • 回数を繰り返す
  • 関連付ける
  • 復習する
  • アウトプットする

これらは、参考文献*1を参考にしています。

この後の節では、この4つの原則のそれぞれについて説明します。

1. 回数を繰り返す

これは詳しい説明は不要かと思います。 新しいものを覚える時に回数を繰り返すことが重要です。

2. 関連付ける

新しいものを覚える時に、既に覚えているものとの紐付けがあると覚えやすいです。3-styleの手順の中にはセットアップで別の手順(「セットアップ先」と呼ぶことにします)に帰着させているものがいくつもあります。そのような手順を学ぶときは、まずセットアップ先の手順を身に付けておき、それとの関連付けを意識すると覚えやすくなります。

3. 復習する

3-styleは手順数が多いので、復習しないでいると何十手順か先に進んだ頃にはほとんど忘れてしまっている可能性が高いです。復習にも時間を使うので一見遠回りに見えますが、一度覚えたと思った後しばらくしてから復習をして、今までに練習した手順は全部使えるようにしておくという姿勢が重要だと私は考えています。これには2つの理由があります。

  • 先に述べた通り3-styleはセットアップで別の手順に帰着させることが多いので、これまでにやった手順をしっかり覚えておけば別の手順を覚える時に役立ちます
  • 3-styleを少しずつ定着させていくことができれば、前に進んでいるという実感が得られ、精神的にとってプラスになると考えています

また、復習はタイミングが重要です。参考文献の「想起練習」の節から引用します。

5秒後に思い出せたら、次はより長い間隔をあけてから思い出します。それでも思い出せたら、さらに間隔をあける。このように、次第に想起の間隔をあけていく方法を延長リハーサルまたは間隔伸長法といいます。

そして、

想起の間隔を長くしていくのが良いとして、それでは具体的にどの程度の時間を空けるのか。具体的な時間がわからなければ、実践もしにくいですから、ここで目安を述べておきます。目安は次の通りです。

1回目 : 数秒から30秒以内に複数回

2回目 : 数分以内

3回目 : 1時間から1日以内

4回目 : 1日後

5回目 : 1か月後

と書かれています。このことも覚えておいてください。ただし、3-style手順は1ヶ月も間隔を空けると完全に忘れてしまう可能性が高いため、この記事では5回目の想起は1ヶ月後ではなく1週間後に行います。

4. アウトプットする

インプットした情報をアウトプットすると記憶がより定着します。すなわち、3-styleだけを回して頭に手順をインプットするだけでなく、それをソルブで使ってみてアウトプットすることでより手順が身に付きます。

しかし、覚えている手順数が少ないうちは実際のソルブの時に3-styleを使うチャンスが少なくアウトプットがしにくいという課題があります。そして、実際のソルブで3-styleを使うチャンスを増やしたいがために急いで手順数を増やそうとして、復習が足りなくて手順が定着しないというジレンマがあります。このジレンマをhinemosは解決します。

本質的でない作業の簡略化

また、記憶の原則以外のもう1つの工夫として、hinemosは練習に必要な事前準備を簡略化します。これは時間的の節約になるだけでなく、モチベーションの面でもプラスの効果があると考えています。もし練習を始める前に必要な準備が大変だと、そこで面倒に感じてしまい練習する前にやめてしまう可能性があります。「想定読者」の節にも書きましたが、モチベーションがある時にそのモチベーションを本質的な練習に使うべきだと考えています。

hinemosマニュアル編: 記憶の原則に則った3-styleの覚え方

まず、練習をするための準備について説明します。その後で、日々の練習で使う機能を説明します。

hinemosが提供する機能は、利用者のナンバリング・レターペア・手順設定に基づいてサポートするものが多いです。そのため、hinemosの機能をフルに発揮するにはこれらを最初に一度登録してもらう必要があります。

この準備によってどんな機能が使えるようになるのかを知りたい方は、「準備編」の節を飛ばして下にスクロールし、先に「練習編」を読んでみるといいかもしれません。

準備編

アカウント登録

hinemos-新規登録

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メールなどのような個人情報との紐付けが不要で、名前とパスワードを決めるだけでアカウントを作成できます。もちろん無料です。

ナンバリング登録

hinemos-ナンバリング登録

3-styleの手順をRU, LFのようなステッカーではなくナンバリングを使って呼ぶために、hinemosにナンバリングを登録する必要があります。

入力の際の注意点は以下の2つです。

  • バッファは@で表す
  • バッファのパーツは、@以外のステッカーを空欄にする

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ところで、どのくらいのタイムを目指すのかにもよりますが、3-styleを覚え始めるのを機に、速いバッファであるUF/UFRバッファに移行してしまうのも1つの手です。もし将来UF/UFRバッファに移行するとしたら、DF/UBLバッファの3-styleを経由せずに最初からUF/UFRバッファの3-styleを学ぶほうが、トータルで覚える手順数が少ないです。

UF/UFRバッファのメリットについては以下の記事で詳しく説明しています。

UF/UFRバッファ(およびFU/UFRバッファ)のメリット - おもにBLD

レターペア一括登録

hinemos-レターペア登録

レターペアを登録する方法として、個別登録と一括登録の2種類があります。

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一括登録は、登録したナンバリングに基づき、そのナンバリングで登場する文字の組に対して、hinemos上で他の人が登録したレターペアを自動的に自分のレターペアとして登録する機能です。

レターペアは最初に全部用意するのが大変ですが、この機能を使うとボタンひとつで登録できます。レターペアの良し悪しはソルブで使ってみた時の成功率・タイム・イメージしやすさを見て初めて分かることもあるので、とりあえず簡単に登録して先に進みましょう。

注意点は以下の2点です。

  • ある単語をレターペアとして採用すべきかどうかはその人の経験に依存します。イメージしにくい単語は後でより良い単語に置き換えましょう
  • 他の人が誰も登録していないナンバリングの組 (例えば、「ぬも」) については単語を引っ張ってくることができないので、自分で単語を用意する必要があります。

3-style手順インポート

3-style手順は自分で作ることもできますが、自分で作った手順がspeed-optimal*2であることは稀です。私は、速さを求めて3-styleにするのですから、speed-optimalな手順を最初から覚えてしまったほうがよいと考えています。

ただし、これについては人によって意見が分かれるところです。Y.Yさんは 3BLD上達法の中で以下のように言っています。

最初のうちは回しやすさよりも分かりやすさを優先すべきだと考えています。一旦3styleに慣れてしまえば、手順の変更はいつでもできます。

(追記) 記事の公開後、上記記事の著者であるY.Yさんからコメントをいただいたのでそのまま引用します。

(追記ここまで)

ですので、自分が手順を作るのが得意かどうかや、覚え直しを厭わないかどうかを鑑みて判断してください。この記事では、他の選手のspeed-optimalな手順を取ってきて覚えるという方法を採ります。コーナー・エッジ両方の手順を、今のうちにhinemosに登録しておきましょう。

hinemosの3-styleインポート機能を使うと、手順表をコピーアンドペーストするだけでhinemosに取り込むことができます。

インポートするための手順表として、DF/UBLバッファとUF/UFRバッファについて、それぞれの手順表を1つずつ貼っておきます。これらの手順表は2020/12/01現在で手順のスペルミスなどがなく、修正せずにそのまま取り込むことができます。 3-styleを学ぶ前に手順のスペルミスを修正するのはとても難しいと思うので、特にこだわりがない場合は以下の手順表を使うことをおすすめします。

  • DF/UBL Ishaan手順

Ishaan選手本人が公開している手順表のスペルミスなどを私が修正したものです。

docs.google.com

  • UF/UFR (FU/UFR) まっさん手順

docs.google.com

なお、FU/UFRバッファの人も、ステッカーの置き換えなどをせずにUF/UFRバッファの手順表をそのまま貼り付けるだけで手順をインポートすることができます。

上記以外については、BLD algs collection の中に様々な選手の手順表が載っています。どうしても違和感がある手順については他の手順を探してみるといいかもしれません。

手順修正

※ 先述のIshaan手順・まっさん手順をインポートした場合はこの作業は不要です(2020/12/01現在)。

3-style手順インポート機能を使ってhinemosに手順を登録する際には自動的に手順チェックが行われ、表記が間違っている手順は登録されずに無視されます。

例: [R' U R, D] ではなく [R' U R' , D] → サイクル成立してない

人間はミスをする生き物なので、手順表にミスが含まれている可能性があります。3-style手順をインポートした後は、3-style一覧画面で抜けている手順が無いかを確認し、もしあれば正しい手順を推測して自分で追加する必要があります。

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3-styleの手順として正しいかどうかのチェックが自動行われることは、以下の点で非常に重要です。

  • 誤った手順を覚えてしまって、覚えたとおりに回しているのに実行ミスが起こってしまうとうことが無くなる
  • 新しい手順を覚えるときに、手順が正しいかどうかを確認する手間を省くことができるため、覚えることに集中できる

3-style問題リスト自動生成

記憶の原則「2. 関連付ける」で説明したように、3-styleの手順の中にはセットアップで別の手順に帰着させているものがいくつもあります。ですので、先に簡単な手順を学んで、その後でセットアップ付きの手順を学ぶというように、手順を覚えていく順番が重要になります。

hinemos 3-style問題リスト自動生成機能を使うと、登録済みの手順を簡単な順に並べて、「3-style問題リスト」を自動的に作成することができます。

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自動生成した3-style問題リスト(以下、「auto問題リスト」と呼びます)は以下の図のようになります。1つ目の問題リストは、ただ1つの手順を含んでいます。2つ目の問題リストは、1つ目の問題リストの手順全てと新しい手順1手順の、計2手順を含んでいます。同様に、3つ目の問題リストは、2つ目の問題リストの手順全てと新しい手順1手順の、計3手順を含んでいます。

このように、新しい手順を学ぶための問題リストは、それまでに学んできた全ての手順を含むという作りになっています。そのため、やってきた中で一番新しい問題リストを練習すれば自然と復習もできるという仕組みになっています。

問題リストの名前を見ると、その問題リストで新しく学ぶ手順についての情報が分かります。「as_new」と付いている手順はセットアップで他の手順に帰着させない手順です。

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問題リスト1番目~11番目(人によって異なります)

「as_new」でない手順は、どのようにセットアップしてどの手順に帰着させているかの情報が問題リスト名に含まれています。 例えば、「system-atuo-041-むさ-as-[D:にさ]」という問題リストは、41番目のauto問題リストで、新しく学ぶ手順は「むさ」で、それは「Dセットアップ」で「にさ」に帰着する、という意味です。「にさ」手順は、既に1番目のauto問題リスト「auto-system-001-にさ-as-new」で学んでいますね。

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問題リスト37番目~51番目(人によって異なります)

練習編

お待たせしました、準備お疲れ様です。ここから実際の練習に入ります。

コーナーとエッジの2つのパートのうち、最初に3-styleを学ぶ時にはコーナーから始めるのがよいと考えています。理由は以下の通りです。

  • コーナーのほうが手順数が少ない
  • M2/OP法を使っていた場合は、まずコーナーをやったほうが手数(タイム)の観点で効果が大きい

まず、練習方法の概略を示します。

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平日は毎日、問題リストを作成してその中で練習していきます。新しい手順の練習に加え、前の日に学んだ手順を復習します。これは 「3: 復習する」での引用した箇所の指南に従っています。

一方、休日はまとまった時間が取れるので、それまでに学んだ手順の総復習に使います。「3: 復習する」での引用では5回目の復習は1ヶ月後と書かれていましたが、初めて学んだ3-styleの手順を1ヶ月も放置していたら完全に忘れてしまうことが経験的に分かっているので、間隔を狭めて1週間としてあります。

1日の中では、以下の練習を行います。手順だけにフォーカスした練習から始め、その日の対象の手順をひととおり学んだらだんだんとソルブ形式に移っていきます。

  • 手順のみ練習 : 3-styleクイズ機能
  • やった手順をソルブ形式で練習 : 3-style Scrambler機能
  • 実際のソルブ練習
    • csTimer
    • Hcon
    • tribox Contest

ここから、1日の中での練習のやり方を詳しく見ていきます。例として、12月7日(月曜)から練習を開始するとします。

初日

3-styleクイズ

初日は復習すべき手順が無いので、auto問題リストを解き進めていきます。

hinemosマイページ

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3-styleクイズは3-styleがナンバリング (レターペア) で提示されるので、その手順を回していきます。

頭で思い浮かべるだけではなく実際にキューブを回すことによって、運動記憶(いわゆる、「体で覚える」ということ)としても覚えることができます。

例えば、「にさ: 二酸化マンガン」という表示を見て、「にさ」の手順を思い出して回します。

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完成状態のキューブに対して同じ手順を3回回して、完成状態に戻せたら「わかった」ボタン*3を押します。わからなかったら「わからん」ボタン*4を押します。

hinemosはこの回答結果を記録し、記録に基づいて苦手な手順を優先的に出題します。注意点として、hinemosは3回回すのを基本としているため、内部的には3で割った値が手順1回の秒数として記録されます。そのため、3回回さずに「わかった」を押してしまうと実際よりも速く回せた扱いになってしまい、得意/苦手判定が正常に機能しなくなります。

何回か「リロード」ボタンを押して繰り返します。覚えたと思ったら次の問題リストに進みます。いけるところまでいきましょう。

3-styleクイズで手順そのものに慣れたら、3-style Scramblerによるソルブ形式の練習に移りましょう。

3-style Scrambler

hinemos 3-style Scrambler

「課題と解決方針」で説明したように、実際のソルブで3-styleを使うチャンスを増やしたいがために急いで手順数を増やそうとして、復習が足りなくて覚えられないというジレンマがありました。 このジレンマを解決するのが3-style Scrambler機能です。

3-style Scrambler機能を使えば、問題リストに含まれている手順のみで解けるスクランブルを生成できるので、3-styleを全手順覚える前にもソルブ形式の練習をすることができます。

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生成したスクランブルはcsTimerで読み込んで、時間を測ってソルブするとよいでしょう。csTimerの機能については、csTimer日本語版ユーザーズガイド(非公式)で詳細に説明されています。特に、「Q. 別のタイマーで生成したスクランブルでソルバーを使いたい」や区間タイムの計測機能(マルチフェイズ機能)は練習をする上で重要ですので読んでおくとよいでしょう。

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2日目

復習を重視するためauto問題リストは前日までの手順を全て含んでいますが、これを毎日やると記憶が薄まる前に練習することになり、記憶の定着という観点ではあまり効率が良くありません。また、平日にやるには時間がかかりすぎるという問題もあります。

そこで、今日の練習のために新しく問題リストを作成し、昨日やっていた手順で覚えきっていないもののみを投入します。まずは、そのような手順を確認するために、昨日の問題リストの手順で3-styleクイズ機能を使いましょう。

クイズ画面の「28日以内に解いていない問題」というテキストボックスを「1日以内に〜」に変えて「リロード」すると、今日まだやったことない問題が優先的に出題されるので、手順を全部巡るのに役立ちます。

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そして、新しい手順を「1208」リストに追加します。ちなみに、「セットアップ先の手順も併せて追加」というオプションがデフォルトでオンになっており、新しく覚える手順と関連のある手順は問題リストの中に自動的に投入されます。

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あとは、「1208」リストで3-styleクイズを行います。

3-styleクイズで充分に学んだら、初日と同様に3-style Scramblerでソルブ練習をしましょう。

3日目

同様です。

  • 今日の「1209」リストを作成
  • 昨日の「1208」リストのクイズを全て解く
  • 昨日の「1208」リストの「詳細」で、「*」で絞り込んで今日の「1209」に追加
  • 新しい手順をauto問題リストから「N/A」で絞り込んで選び、今日の「1209」リストに追加

6, 7日目(休日)

休日は、これまでに学んできた手順をauto問題リストを使って総復習しましょう。繰り返しになりますが、初めて手順を学んでから1週間以上空けてしまうと、完全に忘却してしまう可能性が高いので、土日の復習が重要です。

8日目

まずはいつものように今日のための問題リストとして「1214」リストを作成します。

これまでの平日の練習では、まず前日練習していたリストを全て復習してから、覚えていなかった手順を今日の問題リストに登録する、ということをしていました。しかし、休日にやった復習はこれまでやってきた全手順にわたるため、これを全てやり直すのは、それだけで平日の練習時間の大部分を使ってしまう可能性が高いです。そこで、土日の時点で覚えていなかった問題のみを「*」絞り込んで「1214」リストに追加しましょう。

このとき、土日に使っていた一番新しいauto問題リストの「*」の手順を全て一度「1214」リストに入れてしまうと、覚えていない手順が何十手順も投入されてしまう場合があります。覚えていない手順を何十手順も同時に覚えようとしてもなかなかうまくいきませんし、ある手順をやった後にもう1回やるまでの間隔が伸びてしまいます。これは、記憶の原則の「3:復習する」の1~2回目の目安の間隔に反します。

そこで、 5手順 をメドに、細かく区切って「1214」リストに投入して練習します。5手順の3-styleクイズを繰り返して覚えたら次の5手順を投入して練習しましょう。この時、最初の5手順の復習にもなっているのがポイントです。

土日の時点で覚えていなかった手順が回せるようになったら、新しい手順を「1214」リストに登録して先に進んでいきましょう。

以下同様です。378手順覚えきるまでこのサイクルを繰り返します。

ソルブ練習

※ 8日目である必要性はありません。いけそうならもっと前でも大丈夫です。

これはhinemosの機能ではありません。3-style Scramblerが生成する手順はパリティが無かったり、文字数が少なかったり、COEOが無かったりして簡単なので、ある程度3-styleが身についてきてからは普通のスクランブルでも練習しておいたほうがいいです。

csTimerで普通のスクランブルを生成して練習した後は、大会を意識して、オンラインコンテストに参加してみるとよいでしょう。

Hconは毎日コンテストが開催されていて、大会のようにbest of 3で良い成果を出すための練習になります。そして、自分のタイム推移や失敗の原因などがグラフィカルに表示されるので、振り返りをしつつ成長を実感することができます。PBに基づくランキング機能も、モチベーション向上につながるでしょう。

hcon-3bld.web.app

tribox Contest トリコンもオススメです。 コンテストの成績や運により、買い物で使えるポイントが付与されることがあります。 こちらは週1回なので毎日の練習で使うことはできません。なので、1週間の中で良い結果が出せそうなタイミングを見計らって参加するといいでしょう。

contest.tribox.com

FAQ

あるステッカーに関する手順を集中的に練習したい

問題リストを作って、そこに投入して練習しましょう。『「』で前方一致の絞り込み、『」』で後方一致の絞り込みができます。

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最初は新しい手順をどんどん覚えられたのに、だんだんペースが落ちてきた

自然なことなのであまり気にしなくていいです。問題リスト自動生成では手順が簡単なものから順に並ぶので、だんだん手順は難しくなります。また、練習してきた手順数が多くなるにつれて復習に必要な時間が増えていくので、練習時間の合計が一定なら新しい手順を学ぶのに使える時間は少しずつ短くなります。

事実を受け止めて、それを計算に入れて練習ペースを考えてくみてださい。無理は続きません。復習して今まで練習してきた手順を維持しつつ、1日に新しく2手順でも覚えていけばコーナー378手順は半年ほどで覚えられます。

指遣いがわからない

UF/UFRバッファについては、以下の記事にリンクを貼ってあるのでご覧ください。

UF/UFRバッファ(およびFU/UFRバッファ)のメリット - おもにBLD

DF/UBLバッファについてNeel Gore選手の動画が参考になります。

www.youtube.com

3-styleクイズで、ボタンを押すのが面倒

この記事で紹介されていますが、PC用のフットペダルを買うとストレスフリーになれます。

mstblog.hatenablog.com

それでもやっぱり、3-styleクイズが長く感じる

基本は3回回したタイムを計測して3で割ったタイムを記録していると書きましたが、3-styleクイズの「onlyOnce」モードをオンにすると1回ずつの計測になります。ただし、3回回して完成状態に戻さないということはすなわちキューブが常に崩れた状態になるので、間違った手順を回してしまっていても気付きにくいです。そのため、基本的にonlyOnceモードは一度全手順を覚えきった人向けの上級モードです。

onlyOnceモードで3-styleクイズをやる際に意識すべきことは、以下のツイートを参考にしてみてください。

何回くらい回せば3-styleをひととおり覚えられるのか?

人によって覚えるまでの必要回数は違ってくると思いますが、参考として私のデータを紹介します。

※ 当時は3-style問題リスト機能が整っていなかったので、復習をあまりしないまま手順を巡っていました。反面教師です!私はコーナーに6ヶ月、エッジに8ヶ月かけましたが、この記事の方法で練習を進めればもっと短い時間で習得できると考えています。

コーナー

1ヶ月以内に378手順をひとまわりできるようになるまでの期間: 2018年1月~2018年6月(の末?)

1ヶ月以内に378手順をひとまわりできるようになるまでに12000問解きました。平均して、1つの手順あたり40問くらいは繰り返している計算ですね。

2018年7月に5000問解きました。6月の1ヶ月間で1周しているので、だいぶ記憶に定着しており、スムーズになっています。自信が出てきたので3-styleクイズのonlyOnceモードを使っていたかもしれません。

エッジ

1ヶ月以内に440手順をひとまわりできるようになるまでの期間: 2018年10月~2019年6月(末?)

1ヶ月以内に440手順をひとまわりできるようになるまでに16000問解きました。平均して、1つの手順あたり40問くらいは繰り返している計算ですね。

2018年7月に解いたのが5000問でした。やはりコーナーと同様にスムーズになりました。

おわりに

以下の2点をゴールとして、記憶の原則に基づくhinemosの機能を紹介してきました。

  • 3-styleを覚える時に意識すべき記憶の原則が分かった状態
  • hinemosを使って3-styleを覚えていく方法が分かり、自分で進めていく姿がイメージできるようになった状態

記憶の原則は以下の4つです。

  • 回数を繰り返す
  • 関連付ける
  • 復習する
  • アウトプットする

hinemosマニュアル編ではhinemosの具体的な使い方を紹介しました。 この記事を読んで、3-styleへのモチベーションをうまく行動に移せるようになったのなら幸いです。

まずは3-styleを全て使えるようになりましょう。その後で、苦手な手順にフォーカスして練習して速くしていきましょう。もし3-styleが充分に速く使えるようになったら実行手数に関する改善は一区切りつき、先読みのように「止まっている時間を少なくする」ための改善が始まります。道のりは長いですが、高みを目指していきましょう。

謝辞

この記事を書くにあたり、様々な面でまっさんさん(Twitter: @ms3bf)とH氏さん(Twitter: @cubeforworld)にご協力いただきました。

この場を借りて改めてお礼申し上げます。

*1:参考文献『一流の記憶法: あなたの頭が劇的に良くなり「天才への扉」がひらく』(六波羅穣 著)

*2:ある3つのステッカーの交換について、それを実現する手順は複数存在しますが、その中で最も速い手順をspeed-optimalな手順と呼びます。 分かりやすさのために「最も速い」という表現を使いましたが、ある手順を回しやすく感じるかは人によって異なるため、 speed-optimalな手順は1つに定まらないことが多いです。平たく言うなら、speed-optimalな手順は「世界トップクラスの選手たちが採用している、回しやすく速い手順」です。

*3:ショートカット: 「←」もしくはSpaceキー

*4:ショートカット: 「→」もしくはBackSpaceキー

UF/UFRバッファ(およびFU/UFRバッファ)のメリット

こんにちは、酢酸ことSakakiです。

この記事では、UF/UFRバッファ(およびFU/UFRバッファ)のメリットについて述べます。

以下では事実や主張を明確に述べるために常体(である体)を使用します。

Abstract

2020年現在、世界のトップ層の3BLDのバッファ採用率を見ると、UF/UFRバッファを選択している選手が多いことが分かる。そして、日本においても2018年ごろからUF/UFRバッファを使用している選手が多くなってきている。

しかし、UF/UFRバッファを採用する理由やメリットに焦点を当てた日本語の記事は存在していない。UF/UFRバッファの手順に関する記事やTwitterの投稿でUF/UFRバッファのメリットについて言及されることはたびたびあるものの、複数の媒体に散在しているため、UF/UFRバッファにしようか迷っている競技者が容易に参照することができないという問題がある。

そこで、この記事ではUF/UFRバッファの持つメリットを分かりやすく整理して提示する。別の人による説明がある場合はそれを引用し、もし引用元で根拠が説明されていない場合は必要に応じて根拠を補強する。

UF/UFRバッファのメリットは「アルゴリズム的な特徴」と「手順を学ぶ際の環境」の2つに大別できる。

UF/UFRバッファが持つアルゴリズム的な特徴は以下の2点である。

  • DF/UBLバッファに比べてR, U, E系の回転が多く、速く回せること
  • MBLDにおいて、エッジ分析→コーナー分析→エッジ実行→コーナー実行の順に進める時に、パリティの場合でもDF/UBLバッファに比べてロスが少ないこと

手順を学ぶ際の環境についてのメリットは以下の2点である。

  • 動画または対面で、指遣いのついての情報を得やすいこと
  • 世界においてワールドレコードを更新するために手順の改善が行われていること

ここまで述べてきた特長は、FU/UFRバッファも兼ね備えている。FU/UFRバッファとUF/UFRバッファは3-styleの回転とパーツ移動としては同一なので、実行パートに関しては違いがない。違いが現れるのは分析パートである。UF/UFRバッファとFU/UFRバッファのどちらを選んだほうがよいかは、それまでに競技者が慣れ親しんできた解法によって変わってくる。

目次

はじめに

2020年現在、世界のトップ層の3BLDのバッファ採用率を見ると、UF/UFRバッファを選択している選手が多いことが分かる。BLD Buffersは2020年現在での単発世界ランク (以下WR) 100位までの選手が使用しているバッファをまとめたものである。この表は随時更新されるので、2020月11月時点のスナップショットとしてのWR20までのスクリーンショットを示す。この表によればUF/UFRバッファの採用者は100人中48人である。 日本においても2018年ごろからUF/UFRバッファ (および、FU/UFRバッファ *1 )を使用している選手が多くなってきている。

BLD buffers (2020/11/30時点)

しかし、UF/UFRバッファを採用する理由やメリットに焦点を当てた日本語の記事は存在していない。UF/UFRバッファの手順に関する記事やTwitterの投稿でUF/UFRバッファのメリットについて言及されることはたびたびあるものの、複数の媒体に散在しているため、UF/UFRバッファにしようか迷っている競技者が容易に参照することができないという問題がある。

そこで、この記事ではUF/UFRバッファの持つメリットを分かりやすく整理して提示する。他所に別の人による説明がある場合はそれを引用し、もし引用元で根拠が説明されていない場合は必要に応じて根拠を補強する。

UF/UFRバッファのメリット

UF/UFRバッファのメリットはアルゴリズム的な特徴と手順を学ぶ際の環境の2つに大別できる。

アルゴリズム的な特徴

UF/UFRバッファが持つアルゴリズム的な特徴は以下の2点である。

  • R, U, E回転が多く、速く回せる
  • MBLDにおいて、エッジ分析→コーナー分析→エッジ実行→コーナー実行の順に進める時に、パリティの場合でもDF/UBLバッファに比べてロスが少ない

R, U, E回転の割合

まずは、R, U, E回転の割合について。

1件のツイートを引用する。

つじりさんやきっくん先輩に教えてもらったUFバッファの利点は

・4手の手順(E,R2系統)にセットアップで持ち込みやすいから手順が短く、指遣い次第で爆速

・U面のステッカーとバッファがU回転でインターチェンジ可能だから回しやすい手順が増える

・楽しい

これについて検証しよう。

[中略] から手順が短く、指遣い次第で爆速

以下の4つの手順表何人かのバッファごとの平均手数を表にまとめた。手順表に書いてある"executed as..."のような説明書きを除去した後に、cube-notation-normalizer *2 を使って正規化した。ただし、持ち替えも1手と見なした。

競技者・バッファ エッジ コーナー
DF_UBL_Graham *3 8.79 11.73
DF_UBL_Ishaan *4 8.99 11.60
UF_UFR_Graham *5 8.86 11.46
UF_UFR_Max *6 9.03 11.74
UF_UFR_Massan *7 9.03 11.81

これを見ると、UF/UFRバッファにしたことにより手数が短縮されたわけでは ない ということが分かる。

4手の手順(E,R2系統)にセットアップで持ち込みやすい

エッジで (E系 R2 E系) を含む手順の数を数えたところ、次の表の結果となった。

競技者・バッファ エッジで (E系 R2 E系) を含む手順の数
DF_Graham 38手順
DF_Ishaan 26手順
UF_Graham 57手順
UF_Max 51手順
UF_Massan 55手順

選手によって多少のばらつきはあるが、UFバッファの手順はDFバッファの手順のおおむね1.5倍~2倍の (E系 R2 E系) 手順を含んでいる。

ここで、なぜE回転が速いのかについて、いくつかの手順を見ながら少し考えてみよう。結論としては、E回転はホールドを維持しつつU面と同じように人指し指・中指で回すことができるので速い。

UF-BL-RD
[R' E2: [R U' R', E]] = R' E2 R U' R' E R U R' E R

この手順は、左手親指薬指でD面をホールドして、左人指し指中指をU, E回転に使うことで途中のホールドし直しをせずにスムーズに回すことができる。

比較のため、キューブをz2した後、右手中心に回せるように左右反転してDFバッファの手順として捉えると以下のようになる。

DF-BL-RU
R E2 R' D R E R' D' R E R'

E回転があるものの、バッファがD面にあるためD回転が登場し、左手でホールドし続けることができないので回しにくい。

次は、DFバッファにとって回しやすいM列で回す手順に変換してみよう。

DF-UL-BR
U' M2 U R' U' M U R U' M U

(U R' U')の後だと右手ではMが回せないので左手の薬指を使わざるを得ないが、窮屈な感じになって回しにくい。Mを(Rw' R)で回すなら左手をしっかりホールドしたまま回すことができるが、1手余計にかかってしまう。

違う手順になるが、このMをM'にすると左手をホールドしたまま回すことができるようなる。

DF-BD-BR
U' M2 U R' U' M' U R U' M' U

では、UFバッファに戻って、UF-BL-RDの手順の中のEがE'になったらどうなるかを見てみよう。

UF-BL-LF
R' E2 R U' R' E' R U R' E' R

D面とR面をしっかりホールドできているので、EがE'になっても回しやすい。MはM'より回しにくいが、EとE'はどちらも回しやすいのだ。

元のツイートの確認に戻る。

U面のステッカーとバッファがU回転でインターチェンジ可能だから回しやすい手順が増える

このことを検証するために、手順中のU, U', U2インターチェンジの手順数 *8 を調べた結果を以下の表にまとめる。

競技者・バッファ エッジ コーナー
DF_UBL_Graham 17手順 131手順
DF_UBL_Ishaan 14手順 146手順
UF_UFR_Graham 74手順 136手順
UF_UFR_Max 74手順 130手順
UF_UFR_Massan 80手順 155手順

UBLバッファとUFRバッファは同じU面にあるので大して変わらないが、DFバッファとUFバッファを比較すると5倍程度であり、U回転でのインターチェンジをしやすいことが裏付けられた。

楽しい

検証できないのでこの記事では取り扱わない。

MBLDでのパリティ処理

MBLDでパリティがあった場合に、UF/UFRバッファはDF/UBLバッファに比べて少ない手数で処理ができる。

MBLDにおいては、場所にイメージを置き、実行時にそのイメージをその順番で想起して実行していくので、エッジ→コーナーの順に分析し、同じくエッジ→コーナーの順に実行する。

3BLDの場合はエッジを音記憶で実行するならコーナー→エッジ→エッジ→コーナーの順になるので、エッジを分析する時点で既にパリティの有無を知っている。よって、交換分析 *9をすることができる。

MBLDの場合は最初にコーナーを分析していないので、パリティかどうかを知らない。最初にコーナーの文字数だけ数えればそれを知ることができるものの、時間のロスなのでやらないこととする。この条件下でパリティに対処するには、もしエッジ分析時に奇数文字で終わった場合には最後に「UR」の文字*10を足して偶数文字にすればよい。これで、最終的にURパーツとUFパーツが入れ替わった状態となり、コーナーパリティ処理で元に戻る。

DF/UBLバッファでも同様に、エッジ終了時に奇数文字だった場合は最後に「UB」「UL」「UB」 の3文字を付ければ同じことができる。

比較すると、DF/UBLバッファはエッジの最後の1文字のために、「DF-最後-UB」「DF-UL-UB」の2つの3-styleを回す必要がある。一方、UF/UFRバッファなら「UF-最後-UR」の1つの3-styleを回すだけでよいので、相対的に1手順ぶん得をしている。これは、パリティ手順で交換されるエッジパーツにバッファが含まれているおかげである。

MBLDにおけるパリティ時のテクニック(weak-swap)はGraham Siggins選手が動画シリーズを投稿している。

Fixing Parity in MultiBLD Pt. 1: Intro & the Basics - YouTube

H氏さんが要点を翻訳しまとめたものが以下の2つのツイートである。

上記の動画・ツイートがよくまとまっているので、この記事ではこれ以上説明しない。

手順を学ぶ際の環境についての特徴

手順を学ぶ際の環境についてのメリットは以下の2点である。

  • 指遣いの情報を得やすい
  • 世界においてワールドレコードを更新するために手順の改善が行われている

指遣いの情報を得やすい

【動画情報】

Full UF commutators execution - YouTube (by Graham選手。fullではなく120手順)

Full 3 Style Commutators (UF/UFR) buffers - YouTube (本名不明。 文字通りfullの818手順)

UFR-xyz UF-UR Parity Algs+Fingertricks

Full 3-Style Edge Commutators: UF-UR-xy

Full 3-Style Edge Commutators: UF-UB-xy

【対面情報】

日本でもUF/UFRバッファを選択している選手が多くなってきており、指遣いを相談できる。

世界においてワールドレコードを更新するために手順の改善が行われている

仮に回しにくい手順があったとしても、しばらくしたらそれが別の良い手順に置き換わっている可能性があるので、我々はそれに追従していくだけでいい。

UF/UFRバッファとFU/UFRバッファ

ここまででUF/UFRの特長を説明してきたが、それらの特長はFU/UFRバッファも兼ね備えている。UF/UFRバッファとFU/UFRバッファは3-style手順のパーツの移動は全く同じで、その移動をどう捉えるかが違うだけである。 全く同じ手順が使えるので、実行パートについてはこれらの2種類のバッファに違いは無い。変わるのは分析パートである。

例えば、以下のキューブの状態[R' U' E' R: [E, R2]]という手順によって完成状態にできる。この手順をUFバッファで解釈すると UF-FR-RUとなり、FUバッファで解釈すると FU-RF-URとなる。

FUバッファのほうがオススメな場合

これまでに経験してきた競技や解法によっては、FUバッファのほうがオススメな場合がある。

まず、3BLDのDFバッファの 3-styleをやったことがあるなら、FUバッファのほうがオススメである。 DFバッファの手順でM'でFUにインターチェンジする手順がいくつかあるので、FUバッファにしておくとそのままの感覚 (認識) で手順を流用できる。

また、4BLDや5BLDのウィングエッジをr2法でやったことがあるならば、UFrステッカーではなくFUrステッカーにナンバリングの文字が振ってあるので、そのナンバリングに合わせてFUバッファにしておくのがオススメである。

もしUFバッファにしてしまうと、4BLDや5BLDのナンバリングをUFrステッカーに文字が振られるように変える必要があり、これまでの4BLDや5BLDの分析の経験が使えなくなってしまう。

私は上記の理由により、UF/UFRバッファではなくFU/UFRバッファを採用している。ちなみに、4BLDのウィングエッジのバッファはFUrバッファである。

逆に、上記の事項に当てはまらないのであればUFバッファを選んだほうがよい。先述のBLD Buffersの表を見れば分かるように、UFバッファのほうが使用者が多い。そのため、UFバッファにしておくと他の人の記事を読む時やコミュニケーションの時にステッカーの読み替えをしなくて済むことが多い。

なお、FUバッファの特徴については以下の記事でも言及されている。

きゅーびんぐまっしゅるーむ FUバッファになりたい①

hinemosの3-style手順インポート

ところで、一般にFU/UFRバッファの人がステッカーの読み替えを求められる状況のひとつとして、他の人の3-style手順表を取ってきて使うというケースがある。例えば、他の人の手順表で UR ステッカーの列は RU ステッカーに換き換える必要がある。

しかし、拙作のツールhinemosの3-style手順インポート機能を使えばこの読み替えは不要である。ナンバリングをFUバッファで登録してからUF/UFRバッファの手順表をそのままコピーアンドペーストするだけで他の人の手順を取り込むことができる。

よって、hinemos上で練習するならば、FUバッファを選んだ場合の手間は非常に少ない。ぜひ自分のこれまでの経験を活かせるバッファを選択してほしい。

3-style手順表

「回転の割合」の表の脚注のリンクを参照。

特に、私はまっさん手順を以下の理由でおすすめする。

  • Max選手の手順をベースにしているので、速さが担保されている
  • Graham選手やMax選手に質問するより、まっさんさんに質問するほうが簡単
  • 2020年12月現在、手順表に間違い*11が含まれていないのでそのまま使える

入門解法

Orozcoメソッド

UF/UFRバッファに移行する場合、M2OPに代わる入門解法が必要となる。Orozcoメソッドは速さと簡潔さを両方備えていておすすめである。

解説記事: 中級者向け3BLD解法 Orozco Method - まっさんのブログ

また、上記記事のサポートとして、拙作のツールhinemos上でOrozco method手順表を提供している。このページは、上記記事に書かれている手順を各人のナンバリングで置き換えて表示する。ソルブの時にはRUやLFのようなステッカー名ではなくナンバリングで考えているが、そこからステッカーに戻す必要がなく、ナンバリングのまま手順を確認することができる。また、上記の記事はUFバッファを前提に書かれているが、hinemosの手順表はFUバッファにも対応しており、いちいちステッカーを読み替える必要が無いのが特長である。

hinemosのOrozco手順表

UFエッジ入門解法: M法

(2021/05/17追記)

エッジの入門解法としては、Orozcoメソッドの他には、うえしゅうさんが考案したM法という解法がある。

M法はM列に関する手順は特殊であるものの、その他のステッカーについてはM2法と同様にUBステッカーへのセットアップと逆セットアップを用いるため、M2法を使ってきた人にとってはOrozcoメソッドよりも導入しやすい。

(2022/05/24 URL移転につき修正) UFバッファ版に加筆修正されてました。 M法 解説 (初心者用UFバッファ解法) - uesyuu's Blog

UFエッジ入門解法: M2-M2法

(2021/05/17追記)

また、M法のM列手順を簡単にすることを目的に考えられた、Ma29KHさんのM2-M2法という解法が存在する。

M2-M2法について - Ma29KH’s diary

これはM2法のアレンジで、UFバッファで無理やりM2法をやるものです。M列手順が単純になることがどれ程のメリットになるのかはわかりません。皆さんの意見をもらいたいです。

とあるので、まずM法を試してみて、M列手順をどうしても難しいと感じた場合に、M2-M2法を検討してみるのがよいだろう*12

まとめ

この記事はUF/UFRバッファのメリットとして、「アルゴリズム的な特徴」と「手順を学ぶ際の環境」の2つを説明した。 この記事を読んでUF/UFRバッファ (およびFU/UFRバッファ) の採用者が1人でも増えれば幸いである。

なお、3-style手順の覚え方についてはSpeedcubing Advent Calendar 2020の1日目の記事に書くのでそちらをぜひ読んでみてほしい。

謝辞

この記事を書くにあたり、様々な面でまっさんさん(Twitter: @ms3bf)とH氏さん(Twitter: @cubeforworld)にご協力いただきました。

この場を借りて改めてお礼申し上げます。

*1:UFバッファとFUバッファは回転に関しては同一であるため、UFバッファが持つアルゴリズム的な特徴はFUバッファも備えている。そのため、以下ではUFバッファとFUバッファを区別して扱う必要が無い時にはUF/UFRバッファという表記に統一することにする

*2:https://www.npmjs.com/package/cube-notation-normalizer

*3:https://docs.google.com/spreadsheets/d/1-AnKGJMHN3SAOcZxem3XJ5tBm7Dk1dTRcZ7KcXYbGP4/edit#gid=1637124741

*4:https://docs.google.com/spreadsheets/d/1_jbYWfHAPnuICeSD2HtkJSHHbYHspilRsb097Fo08WA/edit#gid=179704021

*5:https://docs.google.com/spreadsheets/d/1-AnKGJMHN3SAOcZxem3XJ5tBm7Dk1dTRcZ7KcXYbGP4/edit#gid=1637124741

*6:https://docs.google.com/spreadsheets/d/16UbivKIag9ibXOJQaDQWKOQSn66s3EZBNYukN44YWQ8/edit#gid=1765999120

*7:https://docs.google.com/spreadsheets/d/1mHlpvaKb9Emi1ach6vsMcQwBY4mNSJ0ncn5fnVOzojE/edit#gid=337645627

*8:手順が[S: [A, B]]の形式ではなく S A B A' B' S' のように展開して書かれている場合を考慮し、 https://github.com/sakabar/hinemos/pull/687 のプログラムによって手順を[S: [A, B]]に変換した

*9:DF/UBLでの交換分析は交換分析法についてを参照

*10:FUバッファなら「RU」の文字

*11:例えば [U', R D R ] のような表記誤りや、順手順と逆手順が同じ手順になってしまっているケースなど

*12:ちなみに、私個人としては、うえしゅうさんのM法のほうが良いと感じた。

Road to MBLD 20P 253日目

この記事は Road to MBLD 20Pの253日目です。

TL; DR

  • MBLD 1P=5/9 21:51=[12:58]+8:53
    • スピード感は良かったが焦りすぎたか

リンク

目標

最終目標

  • 公式20P

月間目標

  • PBである60分15Pまで力を戻す

やったこと

だいぶ仕事が長びき、MBLDしたのは0時を過ぎてからでした。

MBLD 1P=5/9 21:51=[12:58]+8:53

かなり高速に記憶が入ったのでSub20分を目指して急いだのですが、1個目のエッジの最後のイメージが抜けてしまって数分(?)止まってしまいました。消去法を使わないと思い出せかったのは 「めんま」でした。

ラーメンのメンマは小さくて色も地味なので、「あの花」の「めんま」にした方がいいかもしれないと思いました。「あの花」、あんまりちゃんと見たことがないのでこれを期に見るのもアリかもしれません。

その他敗因

  • 1個目 なぜかコーナー実行ミスしていた
  • 3個目 1個目のイメージの順序が危なかった。あと実行ミス
  • 4個目 目で追っているステッカーと唱えた文字が違う。「てえ」を「てい」とした
  • 8個目 実行ミス

目で追っているステッカーと唱えた文字が違うのは最近頻発するので悪い兆候です。前回はエッジの同じパーツのもう片方、今回は似ている「音」ですり替わりました。

9個挑戦は心理的・時間的負担が少なく、60分フルでやる時のようにソルブ前に踏ん切りがつかずにウダウダする時間無く、すぐにソルブに入ることができて効率的でした。

しばらくは9個をSub20分、13個をSub30分するのを目安にして、少なめの個数で練習しようと思います。昨日のMBLD計測会で少し話したことで、ミニマルチに関する考えが浮かんだので、別途記事にする予定です。

明日へのリンク

http://sak-cube.hatenablog.jp/entry/road-to-mbld-20p-254d

Road to MBLD 20P 252日目

この記事は Road to MBLD 20Pの252日目です。

TL; DR

  • MBLD 11P=12/13 52:18=[38:44]+13:34

リンク

目標

最終目標

  • 公式20P

月間目標

  • PBである60分15Pまで力を戻す

やったこと

10:00~ MBLD計測会

前日に9個22分のスコアを出しましたが、以下の理由で無理せず13個挑戦としました。

  • 朝で眠く、パフォーマンスが出なさそうだったため
  • MBLD計測会を大会のように見なし、確実に結果を残すため

そう、まさしく大会を意識していました。MBLDは朝イチの第1種目として行われることが多く、朝にパフォーマンスを発揮することが重要です。また、自身のパフォーマンスを正確に見積もることも同じくらい重要です。MBLDは試技の開始前に個数を申告する必要があるため、自分のパフォーマンスを実際よりも高く見積もってしまうと時間内に解ききれないキューブが増えてスコアが下がってしまいます。

結果

MBLD 11P=12/13 52:18=[38:44]+13:34 (計測会では初の2ケタポイント)

さて、計測会の結果は1ミスでした。エッジにて、目で追っているステッカーは合っているのに唱えた文字が違っていたのが敗因でした。

時間はだいたい見積もり通りですね。あと1,2個増やせたかもしれませんが、計測会では博打はできません。

明日へのリンク

http://sak-cube.hatenablog.jp/entry/road-to-mbld-20p-253d

Road to MBLD 20P 251日目

この記事は Road to MBLD 20Pの251日目です。

TL; DR

  • MBLD 9P=9/9 22:31=[15:16]+7:15

リンク

目標

最終目標

  • 公式20P

月間目標

  • PBである60分15Pまで力を戻す

やったこと

30分くらいで終わる個数として、9個挑戦しました。

MBLD 9P=9/9 22:31=[15:16]+7:15

3-style実行中にどこかでミスしたと思っていましたが、タイマーを止めてみたら全成功してました。

9月に入ってからのリハビリが実を結び始めているので満足感があります。

明日へのリンク

http://sak-cube.hatenablog.jp/entry/road-to-mbld-20p-252d

Road to MBLD 20P 250日目

この記事は Road to MBLD 20Pの250日目です。

TL; DR

  • MBLD 5P=5/5 9:43=[6:16]+3:27
  • 5個MBLDのPB更新! 初のSub10分

リンク

目標

最終目標

  • 公式20P

月間目標

  • PBである60分15Pまで力を戻す

やったこと

病み上がりだったので控えめの個数で様子を見ました。

MBLD 5P=5/5 9:43=[6:16]+3:27

5個MBLDのPB更新! 初のSub10分でした。体調は戻ったようです。

場所の使い方は2in1、実行は半分くらいが3-styleでした。

明日へのリンク

http://sak-cube.hatenablog.jp/entry/road-to-mbld-20p-251d

Road to MBLD 20P 247日目

この記事は Road to MBLD 20Pの247日目です。

TL; DR

  • MBLD -5P=2/9 19:58=[13:17]+6:41
    • 挑戦は9個だが、4個は手つかず。

リンク

目標

最終目標

  • 公式20P

月間目標

  • PBである60分15Pまで力を戻す

やったこと

MBLD -5P=2/9 19:58=[13:17]+6:41 (ただし4個は分析すらしていない)

夕方までは体調が悪かったので休んでいました。夜にMBLD。本来は14個の予定でしたが、体調を鑑みて30分くらいで終わりそうな9個挑戦としたのですが、あまりにも記憶が入らなかったため途中で断念しました。

体調が悪いときに練習しても効果は薄いですね。寝ましょう。

明日へのリンク

http://sak-cube.hatenablog.jp/entry/road-to-mbld-20p-250d