おもにBLD

スピードキューブ、特に Blindfolded (BLD) の記事を書きます。

4BLDで非公式Sub4分を達成した時の分析・記憶・実行のやり方

はじめに

こんにちは、酢酸ことSakakiです。

この記事は Speedcubing Advent Calendar 2021 の1日目の記事です。

昨日の記事 : 初日なので無し

明日の記事 : カレメオンさんの PLLのCP読み講座

これから25日間、穴を空けないようにみんなで記事を投稿していきましょう!

目的

この記事の目的は、4BLD Sub4分を狙う人にとってどのくらいのスキルセットが必要なのか (裏返すと、何が必要ないのか) を判断する材料を提供することです。 もし読者の方にとって目新しいことがあればそれは有益だと思いますし、もし目新しいことが無ければあとは練習量の問題であることが分かると思います。

なお、この記事で説明するやり方が万人に合っているか分かりませんし、未来の自分から見たら変なやり方をしている可能性があるので、あくまで参考情報のひとつとして読んでください。

特に、Stanley Chapel選手による4BLD Example Solves by the World Record Holderで説明されていることと私の記事とで食い違うことがあったら、Stanley Chapel選手の言うことを信じたほうがいいと思います。なんと言っても、先日4BLD 公式Sub1分の偉業を成し遂げた選手ですから。

○ 用語

この記事ではXセンターのことを「X」、ウィングエッジのことを「W」または「Wエッジ」、コーナーのことを「C」と書くことがあります。

背景

4BLDのやり方を解説する記事は、初学者向けの記事とNR保持者が自身のやり方を紹介する記事はあるのに、その間のタイム帯の記事が存在せず、必要なスキルセットや練習内容が説明されない空白地帯のようになっていると感じました。

歴代のNR保持者による記事

そこで、この記事では4BLDの非公式記録が6分台の人を想定読者として、Sub4分に向けた分析・記憶・実行のやり方と練習方法を紹介します。4BLDで6分台というタイムは2-cycleの手順で、XとWの分析に慣れて、場所法に慣れれば到達可能だと思います。そして、3-styleを本格的に導入したらどのくらい速くなるのかが気になっている頃だと思います。

reconstruction

まず私が出したタイムと解法を書きます。

スクランブル運が良く、ソルブ中にspeed-optimalな3-styleを使えた数が非常に多かったです。speed-optimalな3-styleが使えなかったのは2手順のみでした。

4BLD 3:38.15=[1:39]+1:59

reconstruction: alg.cubing.net

私の解く順番は、分析はX→W→C、実行はC→X→Wの順です。

ただ、5BLD Race | 9 cubers 1 5BLD scramble series (youtube, Googleスプレッドシート)によると、トップ層は実行は記憶と完全逆順でやっている人が多いとのことです。

私は、完全逆順だと覚える時の場所の順番と実行時に思い出す場所の順番が逆向きになるので違和感があるのですが、トップ層はそうでもないようです。トップ層がやっていることを信じましょう。これは私にとって伸び代です。

バッファは X:Ubl, W:FUr, C:UFRです。

3-styleを覚え始める前に、BLD Buffersでバッファの採用率を確認し、BLD algs collectionで誰のどのバッファの手順が公開されているかを確認してバッファを選ぶとよいと思います。2021年12月現在では、コーナーUFR、WエッジUFrは疑いの余地が無いですね。Xセンターについては、UblとUbrで分れている一方でWRホルダーのStanley Chapel選手は単独でUfrを選択しているため、何を選べばよいか難しいかもしれません。

私のバッファは、実質的に*1Graham Siggins選手のバッファと合わせています。

手順もほぼ100%Graham選手の手順を使っています。 Graham選手のYoutubeチャンネルは動画の投稿数が多く、また、丁寧にreconstructionをコメントで残してくれるので勉強しやすいです。

分析

メガネを外してタイマースタート。

分析の基準面は、手数が多くなりがちなD面が埋まるように決定し、その後側面を決定します。

期待値としては、7~8文字ぶんが正しく埋まっているとのことです("Most common best # of 4BLD centers solved" problem)。 しかし、6,7文字埋まっていることが分かったらbetterな基準面を探すことはせず、キッパリと探索を打ち切ることが重要だと考えています。少しでもためらいがあると分析を始めてからもそのことがチラついて失速しがちです。

Xの分析時には指押さえています(4BLD入門(Y.Yさんからの寄稿) 参照)。

Xセンターの分析では以下の優先順位でステッカーを巡ります。規則的なほうが、どこまで分析したかを把握しやすいです。規則的であれば、私と全く同じにする必要はありません。

Xセンター分析の優先順位

例外としては、U面が全て埋まってしまいそうになった時は優先順位を崩してそれを回避します。 序盤からU面ステッカーを避けておくとU面が埋まるのを高確率で回避できますが、回避を意識しすぎると優先順位から外れすぎてしまい、どこまで分析したかが分かりにくくなるなるため、終盤のみで回避を意識しています。

W分析は2ループ目をできるだけUBrステッカー(UFrバッファの人ならBUr)から始め、MBLDのテクニックであるweak-swapと似たような感じでUBrステッカーを後回しにしています。こうすると、Wパリティがある場合にUBrにセットアップする必要がなくなるため、数手得すると思います。

交換分析はしていません。もしやるならCを最初に分析する必要がありますが、 Cは文字数的に音記憶で最後に分析したいのと、交換分析でCパリティをスキップできるとしても、そのために文字数数えるためだけにCを分析していたらタイムに本末転倒だと考えています。

記憶

前述の通りCは音記憶で、他のパートは場所法を使っています。1プレイスに2イメージを置いています。レターペアはほぼ全て 手で触ることができるようなイメージ にしており、形容詞や動詞のレターペアは使っていません。1プレイス内の反転防止のため、「まず1イメージ目がプレイスの床に接する形で有って、次に2イメージが飛び込んでくる/上に乗っかってくる」ということを原則として場所に置きます。

試技の時に想起できなかったレターペアは、よりイメージしやすく・より区別しやすいイメージにどんどん入れ替えていきましょう。ここで、言葉としてのレターペアの作りやすさとイメージのしやすさは一致するとは限らないことに注意が必要です。私の場合は、「すし」のレターペアは「寿司」一択だと思っていましたが、実際の試技だと思い出せないことがよくありました。そこでドラゴンボールの「四神球」(オレンジの丸い球)に変えたらイメージしやすくなったという経験があります。

新しいレターペアに変えて悪化してしまったら戻せばいいだけなので、ミスが多いレターペアは気軽に変えていきましょう。 レターペアの定着のためには、hinemosのレターペアクイズ機能を使っています。

4BLDと5BLDの記憶パートで、復習はしていません。実行時間(=保持する必要がある時間)が短い前提で、かつ具体的で紛らわしくないイメージを場所に置いていれば、復習せずとも正確に想起することができます。

練習したいのに場所が無いなんてことが無いように、場所はたくさん作っておきましょう。 私の現在の場所の量は3x3キューブ96個ぶんです。私は一度使った場合は次の日は使わないようにしてゴーストを消しているため、1日あたりで48個ぶんの場所が使えます。 私の場所の作り方は MBLDを毎日やるためのゴースト対策 で説明をしています。

また、私は記憶の練習のため、メモリースポーツ(記憶力競技)にも取り組んでいます。 Speedcubing Advent Calendarの対象である「Speedcubingに関連する記事」から離れてしまうので詳しくは書きませんが、主にMemoryLeagueで画像の順番記憶を、hinemosでトランプ記憶を練習しています。

画像の順番記憶をするとイメージを言語化せずに場所に置くことの練習ができ、場所法という要素のみを集中的に鍛えることができます。

トランプ記憶は5BLD相当の数のイメージをスムーズに変換して場所に置いていく訓練になります。4BLDや5BLDよりも競技者数が多く、SCCという大会が隔月ペースで開催されているため、モチベーションを保ちながら練習しやすいと思います。

以上、メモリースポーツの話でした。

実行

X, Wは3-style、CはOrozco methodです。Cで3-styleが使えていないのは明確なロスですが、Cが全体に占める割合がそれほど大きくないのでとりあえずはなんとかなっています。3BLDでも使うのでそう遠くないうちに使えるようにしておきたいです。伸び代です。

3-styleが思い出せずに回せない場合、以下の解法を使います。

前に実行はC→X→Wの順と書きましたが、CやWがパリティの場合は

C(1文字残し) → X → W → Wパリティ → C1文字 → Cパリティ

となります。

WパリティはStanley Chapel選手のBetter Wing Parity

UFr BUr: l' U2 l' U2 M' U2 l' U2 l U2 r' U2 l2

の手順を使っています。

今年の夏に同じくStanley Chapel選手がHow to Solve Wing Parity Efficiently in BigBLDという動画が公開しているので、こちらも参考になると思います。

nod-don(首振り)はしていません。伸び代です。

3-style

WとXは4BLDの実行時間の多くを占めるので優先的に3-styleを覚えましょう。CはSub4分までなら不要のようです。

WとXのどちらから覚えるべきかについては、人それぞれだと思います。

Wは3BLDのエッジ3-styleの考え方を適用しやすいので、エッジ3-styleを知っているなら入りやすいと思います。

一方、Xは440手順、Wは506手順なので、Xのほうが覚えやすいかもしれません。

Xセンターについてはセットアップで他の手順に持ち込みやすいため、セットアップを多用して覚える手順を最小限しようと考えていたことがあったのですが、それは正しくはなかったと思います。実際にはXセンターの全手順を巡ったらSub4分が出たので、大会直前じゃない限りは手順増やす方向で考えたほうがよさそうだと思います。3-style手順を回せたらもちろん速いですし、手順の練習時にレターペアと紐付けておけばレターペアの定着にもつながって記憶も速くなります。

3-styleの練習は2020年版・挫折しない3-style習得法 with hinemosの方法でやっています。

指遣い

u, u'はそのまま単層回しで、それ以外は2層回しを使用しています。 dの親指プッシュは使っていません。

  • d → D' Dw
  • d' → D Dw'
  • r → Rw R'
  • r' → Rw' R
  • r2 → Rw2 R'2 (もしくは「Ishaan M2」: R' Rw r)
  • l → 3Rw' Rw
  • l' → 3Rw Rw'
  • l2 → 3Rw'2 Rw2
  • f, b → 不使用 (Stanley Chapel選手は使っています…)

左手はキューブをD面で掴んで支えるために使い、D面以外の回転は基本的には右手で行います。

ただ、これは回転時に片方の手首を固定するという意味ではありません。 dを左手だけでD’ Dwすると合わせて片手だけで合計90+90=180度ぶん回転させる必要があるのに対し、右手と左手で (左手D’ 右手3Uw) (左Dw 右Uw') すると両手で分け合えるので理想的には45+45=90度ぶんの時間で済むと思います。

d回転を含む Ubl Fdr Ldf [r U2 r', d] の指遣いはこのようにしています。dやd'の回し方に注目してください。

www.youtube.com

Graham選手の指遣いも見てみましょう。5BLDの動画から取ってきていますが、おそらく4BLDと指遣いは変わらないと思います。Youtubeのサイト内でスロー再生するのをオススメします。

  • d’を左手D Dw’としています(2:18)。

https://www.youtube.com/watch?v=glwHmvyK2c4&t=135s

  • 手順によるかもしれませんが、u2は左手でu’ u’しています。 [L 2u : [r’ U2 r, u’]]

https://www.youtube.com/watch?v=7eGFKJvtXAA&t=29

  • d2はD’ Dw D’ Dwで回しているようです。 [F : [r U2 r’, d2]]

https://www.youtube.com/watch?v=7eGFKJvtXAA&t=34

試技の練習

PB表を管理しつつ、パート練習と全体練習を行いました。ラッキースクランブルでのPBに関する考えは、ソルブ回数を自然と増やせるように、練習でのラッキースクランブルに対する考え方などを変えたに書きました。

パート練をする→PB出る→全体も伸びるはずだから回数を重ねるモチベーションにつながる→全体でPB出る→全体練習で伸びたということはパートに絞ればもっと速くなるはず→最初に戻る

のようなサイクルが成立すると楽しいです。 サイクルが止まったら手順を増やしたりレターペアを見直したりするタイミングかもしれません。

ソルブのモチベーションを上げるためには、SpeedSolving.comのWeekly Competitionに参加してみるのもよいと思います。大会のように、与えられた3試技で結果を残す練習になると思います。

試技の前には、効果があるかわかりませんが、おまじないとして試技の前に速い人の動画を見て脳内のスピード感のイメージを高めたり、メトロノームをtps4のペースで鳴らしたりしていました。

おわりに

色々なことを盛り込んだのでスッキリはしていない文章となってしまいましたが、この記事で非公式6分台の方々のモチベーションと希望につながれば幸いです。

reconstructionはalg.cubing.netが使えなくなった時に備えてこのブログにも貼っておきます。長いので畳んでおきます。畳めていませんでした…

x2 y

// [Notice]
// Slice moves are described as Outer Block Turn Metric without slice u or u'
// i.e. d as (D' Dw), d' as (D Dw')
// [(D' Dw), A] is expanded as (D' Dw) A (Dw' D) A', but I acutually move as (D' Dw) A (D Dw') A'

// Corner (4algs)
[R: [R D R', U2]] // (9/9) UFR FLU UBR
[D: [R U R', D2]] // (9/18) UFR FDL BDR
[U, R' D' R] [U', R D R' D' R D R'] // (24/42) should be [U' R' U' D: [U2, R D' R']]
[y' x: (L' U2 L U L' U L) (R U2 R' U' R U' R')] // (14/56) 2CO

// X-center (7algs)
[R 2U': [Rw R' U Rw' R, 2U2]] // (15/71) Ubl Lfu Rfu
[y': [Rw' R 2U Rw R', U2]] // (12/83) Ubl Fru Ufr should be [Uw: [U2, Rw' R u' Rw R']]
[y: [Rw' R, U' 3Rw2' Rw2 U]] // (12/95) Ubl Dfr Lbd
[D Dw', Rw R' U2 Rw' R] // (14/109) Ubl Rbd Fdr
[U': [U', Rw' R Dw D' Rw R']] // (15/124) Ubl Ufl Ldf
[D': [U Rw2 R2' U', Lw' L]] // (12/138) Ubl Flu Dbr
[F2: [2U2, Rw R' U Rw' R]] // (14/152) Ubl Blu Fdl

// Wing-edge (11 algs)
3Lw' U L' U' Rw' R U L U' Lw // (10/162) FUr LDb DFr (= [Lw': [r, U L' U']])
[R', D Rw2 R2' D'] // (8/172) FUr RFu RDf
Lw' D' R U R U' Rw R' U R' U' Rw' D Lw // (14/186) FUr BUl UBr (= [Lw' D' R: [U R U', r]])
[3Rw': [U 2Rw2 R2' U', L']] // (10/198) FUr ULb FLu
[U: [L, U 3Rw2' Rw2 U']] // (11/209) FUr FDl LBu
[U' R' U, Rw2 R2'] // (10/219) FUr BDr RBd
[Rw' U': [U' Rw2 R2' U, R]] // (13/232) FUr UFl URf
[U: [D, 3Rw' Rw U 3Rw Rw']] // (14/246) FUr DRb DBl
[z: [U' R U, 3Rw Rw']] // (10/256) FUr LFd FRd weak-swap, remain UBr as unsolved
[U R' U', Rw R'] (3Lw' U' L' U Rw' R U' L U Lw) // (20/276) FUr BRu DLf should be [y U: [3Rw' Rw, U R U']]
[U R U', Rw R'] // (10/286) FUr FRd UBr

// 286 turns / 119s = 2.40tps

*1:実質的にと書いたのは、WエッジについてはFUrで、UFrではないですが、パーツの動きは同じであるためです。UF/UFRバッファ(およびFU/UFRバッファ)のメリット参照。