おもにBLD

スピードキューブ、特に Blindfolded (BLD) の記事を書きます。

トランプ記憶: SCCで平均記録を残すためにやったこと

こんにちは、酢酸ことSakakiです。先日行われたトランプ記憶の大会の城南 Speed Cards Challenge 2021で最初の4試技を成功して、失敗の300秒を含まない平均記録を残すことができました。

その前に最後に自己ベストを出せたのは2020年2月の三鷹SCC 2020で、それ以来1年半以上、6大会に渡って記録更新できない状態が続いていました。

私の問題点は以下の2点でした。

  • イメージが雑になっていたこと
  • 苦手要素に着目せずに万遍なく練習していたこと

この記事ではこれらの私の失敗談について話しつつ、今回の成果を出すに至った練習法を紹介します。

この記事でも何度か引用しますが、まずは平田直也選手のトランプ記憶でタイムを縮めるアドバイス11選を読んでもらうと、私がいかにマズいことをしていたのかが鮮明になると思います。この記事は前に何度も読んでいたはずなのに、いつの間にか自分が全くこの内容に沿わないことをやっていたことに気付いた時には愕然としました。

前提: 私のシステムは1カード1イメージの2in1

失敗の話に入る前に、私が使っているシステムについて説明しておきます。

私は1カード1イメージ、1プレイスに2イメージ (2in1) で覚えています。イメージ数は52、1枚目と2枚目のイメージの仕方が違うので、それを区別して数えるなら104イメージです。

1カード1イメージの2in1はイメージの入れ替わりがPAOなどのシステムに比べて相対的に起こりやすいのは事実ですが、イメージの仕方を工夫すれば今大会の私のように入れ替わりを起こさずに平均記録を残すことができるということは強調しておきたいです。

私は場所を思い浮かべた後、「まず1枚目のイメージがその場所に接地していて、その上に2枚目のイメージが乗っかっている」という情景を基本にしてイメージしています。このようにすると、同じペアでも前後が入れ替わるとイメージの上下関係が変わるので、この原則の通りに場所に置けていれば入れ替わりは発生しません。

この記事は入れ替わりには困っていない前提で他の要素に関する練習法を書きますが、もし入れ替わりで困っている場合は、上記のようにイメージの仕方を工夫してみてください。

それでは、私の失敗の話に移りましょう。

失敗していたことと、それへの対応

失敗1: イメージが雑になっていたこと

私は過度に変換練習を重要視していて、練習時間の大部分を変換練習に使っていました。

その結果として変換練習のタイムは縮まったのですが、以下のような状態になっていました。

  1. 変換タイムの短縮だけを意識する
  2. 変換練習には回答フェーズというフィードバックが無いので、イメージが雑になりすぎていることに気付けない
  3. 雑なイメージでのスピード感に慣れてしまう
  4. 記憶練習でも雑なイメージでのスピード感でイメージの思い浮かべが充分ではない状態のまま次に進んでしまい、記憶に残らない
  5. 52枚パーフェクトの割合はたった14%くらい
  6. 稀にまぐれ当たりのような感じで速いパーフェクトが出る

稀にまぐれ当たりのような感じで速い記録が出てしまうのが曲者で、ギャンブル的な達成感と妙な成功体験を生んでしまっていました。 イメージを思い浮かべていたとしても思い出せなければ意味がなく、思い出せる強度であることが必要です。変換練習を「思い出せない強度で想起する練習」にしてしまうと、「思い出せるギリギリの強度で先に進む」のがどんどん下手になってしまいます。

大会でも記録が残せるならいいのですが、先述の通り大会では失敗が続いていました。ここで、大会で結果を残すために必要な成功率について計算してみましょう。

1試技の成功率をpとします。大会の5試技の中で少なくとも1回成功する確率は、1から「5試技で全失敗する確率」を引けば求めることができるので、次のようになります。

1 - (1 - p)5

では、この確率が90%以上になるには成功率pは何%以上必要でしょうか? いくつかのpで試していけば分かりますが、答えは37%です。私の練習での成功率は14%だったので、以前の私は失敗すべくして失敗していたことになります。

この37%という数字について、一体どのくらいの雑さなら許されるのかを少し考えてみます。

例えば、2in1で1つのプレイス内での順番がA-BなのかB-Aなのか分からなくなってしまったケース*1を考えましょう。この時、2枚の順番が運任せになるので、成功率は50%です。37%よりは大きいですね。

同様に、A-B、C-Dのように1プレイス内でのペアの順番には自信があるが、どのプレイスだったのかが分からないケース*2も、50%の運任せになります。

では、3枚もしくは3ペアの順番が分からなくなった場合は? 3 * 2 * 1 = 6通りのパターンのうち正解は1つだけなので、16.7%の運任せになります。50%からはガクッと下がって、37%を下回ってしまいました。

このように、5回に少なくとも1回成功するには、順番に全く自信がない札を2枚程度にする必要があります。想像していたよりも少ないでしょうか。失敗覚悟で急ぐことを「攻める」と言ったりしますが、それでも5回中1回成功させるにはこのくらいの精度が必要なのです。

トランプ記憶でタイムを縮めるアドバイス11選 によれば、

アドバイスっていうか当たり前なんですが、場所に強く置きます。具体的な数字で言うと、リコール(解答)の時に、場所からすぐにイメージが思い出せるのが8割以上になるようにしましょう。

とのことです。8割ということは52枚中42枚で、自信がある札を埋めていって10枚が残った状態ということですね。

失敗2: 苦手要素に着目せずに万遍なく練習していたこと

私は、以前は変換練習でも記憶練習でも、52枚を万遍なく練習していました。 これでは練習時間の大半を得意~普通の札の練習に使うことになり、効率が悪いです。苦手な札に絞って変換練習・記憶練習をすることが重要です。

苦手なイメージの改善については、 トランプ記憶でタイムを縮めるアドバイス11選の「アドバイス③:その時一番苦手な変換を改善していく」の節で説明されているので非常に参考になります。

上記の記事で、

常に「今一番苦手なカードを相対的に探し、得意に変える」という意識を持つと成長が途切れません。

というアドバイスがありますが、私は自分が一番苦手なカード (遅い or よく間違える) を知るために、拙作のhinemosというツールを使って練習しました。無料です。

hinemosの機能

hinemosはスピードカードの画面から、変換練習と記憶練習をすることができます。

f:id:sak_3x3x3:20210926134957p:plain
スピードカード練習の設定画面

試技の結果は試技ごとの結果確認画面で確認することができます。この画面では、52枚全体のタイムや各札の正誤だけでなく、それぞれの札にかけた時間が確認できるため、自分の苦手な札を知ることができます。

f:id:sak_3x3x3:20210926135141p:plain
記憶/変換練習の結果画面

また、試技を横断した統計情報を確認することもできます。このページでは任意の期間に行った変換練習・記憶練習の札ごとの平均タイムや正解率や練習回数などを確認することができます。この画面も、記憶に時間がかかる札や紛らわしくて間違える札を知るために役立つと思います。

f:id:sak_3x3x3:20210926140243p:plain
統計情報ページ

試技を横断した統計情報のページでは、他にも様々な情報を確認できます。 Top 5 Scoresについては細かい仕様があるので、ここで説明します。

  • 4分以内*3に回答して52枚パーフェクトを取ったタイムのTop 5を確認できます
  • スコア計算はMemory Leagueとほぼ同じです
  • ただし本家とは異なりマイナスの点も計上するので、まだ60秒以内に記憶できない競技者もスコアの向上を実感できます

f:id:sak_3x3x3:20210926181201p:plain
統計情報ページ:試技のタイム情報

苦手な札の練習方法

さて、苦手な札の練習方法の話に移ります。 練習の設定の画面で、指定した期間で「記憶が遅い」「変換が遅い」「正解率が低い」「出現していない」札に絞って練習することができます。私は練習の枚数は「6枚ずつ」として、2枚ペアなので12枚が出題されるようにして練習をしました。52枚のうちの12枚なので、約25%に絞って練習するわけですね。

f:id:sak_3x3x3:20210926142040p:plain
苦手に絞って練習

まずは、苦手なイメージに絞った変換練習を5~10回ほどして、イメージを頭の一時領域に乗せます。この時点でやけに遅いイメージがあったら、イメージ変更を試みます。 私はこの2ヶ月弱で52枚中10枚のイメージを変更しました。

イメージを変更していて思ったのは、語呂合わせが思い付きやすいからと言って覚えやすいとは限らないということです。例えば、スペードの4のイメージを「ス」ペードの「し」ということで「寿司」にしている方は多いかもしれません。スペードの4が得意ならよいのですが、私にとってはうまくイメージできずによく間違える札のひとつでした。最初は練習回数が足りないだけかと思っていましたが、苦手な札に絞って練習回数を増やしても改善しなかったので思い切ってイメージを変更したところ、正解率を大きく向上させることができました。

イメージ変更をしつつ、しっくりくるイメージを頭の中の一時領域に乗せ終わったら、記憶練習をします。苦手に絞った記憶練習の際は、以下のことに注意しました。

  • 12枚パーフェクトを目指す
  • リコールは場所から思い出す
    • 12枚なので消去法ができてしまうが、それだと意味がない
  • 自信が無い札は勘で答えずに無回答にする
    • 正確に記憶できていないのは変換イメージが良くないというサインなので、そのサインを握り潰さないようにする

本番よりも少ない12枚の練習で効果があるのかという疑問を持った人は、こう考えてみてください。

  • 52枚でパーフェクトするには、より少ない12枚でパーフェクトできることが「必要」です。
  • 52枚で5分間記憶を保持するには、より少ない12枚で、試技の直後に記憶を保持できていることが「必要」です。

まずは必要条件を満たしに行きましょう。

実戦練習

苦手練習を繰り返して充分に技能が向上したら、52枚全体での実戦練習に移ります。

私は、このフェーズに移るための判断基準として、Top 5 Scoresを更新できそうかどうか、すなわち、

(各イメージの平均タイムの52倍) < (Top 5 Scoresの5番目のタイム)

であるかどうかで判断しました。

苦手な要素に絞って反復練習をすることや、苦手要素を充分に練習した後の技術の統合については、成功する練習の法則 最高の成果を引き出す42のルール (日本経済新聞出版)が参考になります。

大会2週間前くらいからやったこと

苦手練習よりも、大会での形式を意識して練習に時間を割きました。具体的には、1日の中で52枚の試技を極力5試技、リアルトランプでやるようにしました。 試技の際には、速いタイムを狙うことよりも成功させることを意識しました。

「実力的に実際に出せそうなタイム」よりも速いタイムを本番で出そうとすると、緊張につながります。今大会では平均を狙っていたので、私はhinemos統計ページで直近1ヶ月の記録に基づいた「average of 5の期待値」を確認し、自分のタイムが122秒程度*4であることをあらかじめ自覚していました。

f:id:sak_3x3x3:20210926184231p:plain
average of 5の期待値

自分の経験として、自分の力を過大評価してしまうことが多く、「統計的に出せそうなタイム」と「感覚的に出せそうなタイム」を比べると、「感覚的に出せそうなタイム」のほうが速いことが多いです。「感覚的に出せそうなタイム」は実際には出ないことが多いので、「なぜかうまくいかない」という思いに囚われることがありますが、思い込みはよくありません。数値を見ましょう。

大会当日にやったこと

行きの電車で、「9/23から9/23に『出現していない』」イメージに絞って変換練習を行うことで、全てのイメージを網羅しました。

その上で、「記憶が遅い」イメージや「変換が遅い」イメージの変換練習を繰り返しました。

9/23の変換練習は合計で1458イメージでした。各イメージでの回数は、少ないものだと2回、多いものだと52回(!!)でした。

変換練習だけだとこの記事で話してきたように空回りする可能性があるので、大会で使わない場所*5を使ってhinemos上で試技をして、具合を確認しました(2試技)。

大会の試技では、タイムは全く意識しませんでした。これは単にタイムを見ないという意味ではなく、2分以内に収めようとか、52枚のうち前半のイメージでちょっと詰まってしまった時に後半で挽回しなければとかも、考えていませんでした。 タイムを見ないことについては、【トランプ記憶初心者必見】トランプ記憶でやってはいけないこと3選(youtube)で言及されていますね。

事前にどのくらいのタイムが「統計的に」出せそうかは確認済みです。統計を信じましょう。 結果的には平均115.61でBランクを取ることができましたが、2分以内に必ず収めようと思っていませんでした。タイマーを止めた時に何秒になっているかは、祈りです。タイムを意識して無理に急ぐと、イメージが浮かび上がる前に次の札に進んでしまうことが増え、失敗します。

まとめ

hinemosを使って、苦手なイメージに絞って、イメージが雑にならないように記憶練習を中心にして練習したらうまくいきました。

謝辞

この記事の出発点である自身の問題点を知ることができたのは、yas選手のおかげです。城南SCCでも口頭でお伝えましたが、ここで改めて謝辞を申し上げます。ありがとうございました。

おまけ: Stats

人それぞれの技能によって必要な練習量は変わりますが、参考程度に 私が練習方法を変え始めた8/5から大会前日の9/22までの統計情報を貼っておきます。

f:id:sak_3x3x3:20210926200238p:plain

f:id:sak_3x3x3:20210926200250p:plain

*1:根本的には、前に述べたようにA-BとB-Aでイメージの仕方を変えるべきです

*2:イメージする時の場所との結び付けが弱いということですね

*3:Memory Leagueの仕様に合わせています

*4:リアルトランプなので、さらに遅くなります

*5:前日に使った場所を全く使わない前提で、2021/09/26現在、1日に使える場所はトランプ記憶12試技ぶんです。つまり、7試技ぶん余裕がありました