おもにBLD

スピードキューブ、特に Blindfolded (BLD) の記事を書きます。

4BLDで非公式Sub4分を達成した時の分析・記憶・実行のやり方

はじめに

こんにちは、酢酸ことSakakiです。

この記事は Speedcubing Advent Calendar 2021 の1日目の記事です。

昨日の記事 : 初日なので無し

明日の記事 : カレメオンさんの PLLのCP読み講座

これから25日間、穴を空けないようにみんなで記事を投稿していきましょう!

  • はじめに
  • 目的
  • 背景
  • reconstruction
  • 分析
  • 記憶
  • 実行
    • 3-style
    • 指遣い
  • 試技の練習
  • おわりに

目的

この記事の目的は、4BLD Sub4分を狙う人にとってどのくらいのスキルセットが必要なのか (裏返すと、何が必要ないのか) を判断する材料を提供することです。 もし読者の方にとって目新しいことがあればそれは有益だと思いますし、もし目新しいことが無ければあとは練習量の問題であることが分かると思います。

なお、この記事で説明するやり方が万人に合っているか分かりませんし、未来の自分から見たら変なやり方をしている可能性があるので、あくまで参考情報のひとつとして読んでください。

特に、Stanley Chapel選手による4BLD Example Solves by the World Record Holderで説明されていることと私の記事とで食い違うことがあったら、Stanley Chapel選手の言うことを信じたほうがいいと思います。なんと言っても、先日4BLD 公式Sub1分の偉業を成し遂げた選手ですから。

○ 用語

この記事ではXセンターのことを「X」、ウィングエッジのことを「W」または「Wエッジ」、コーナーのことを「C」と書くことがあります。

背景

4BLDのやり方を解説する記事は、初学者向けの記事とNR保持者が自身のやり方を紹介する記事はあるのに、その間のタイム帯の記事が存在せず、必要なスキルセットや練習内容が説明されない空白地帯のようになっていると感じました。

歴代のNR保持者による記事

そこで、この記事では4BLDの非公式記録が6分台の人を想定読者として、Sub4分に向けた分析・記憶・実行のやり方と練習方法を紹介します。4BLDで6分台というタイムは2-cycleの手順で、XとWの分析に慣れて、場所法に慣れれば到達可能だと思います。そして、3-styleを本格的に導入したらどのくらい速くなるのかが気になっている頃だと思います。

reconstruction

まず私が出したタイムと解法を書きます。

スクランブル運が良く、ソルブ中にspeed-optimalな3-styleを使えた数が非常に多かったです。speed-optimalな3-styleが使えなかったのは2手順のみでした。

4BLD 3:38.15=[1:39]+1:59

reconstruction: alg.cubing.net

私の解く順番は、分析はX→W→C、実行はC→X→Wの順です。

ただ、5BLD Race | 9 cubers 1 5BLD scramble series (youtube, Googleスプレッドシート)によると、トップ層は実行は記憶と完全逆順でやっている人が多いとのことです。

私は、完全逆順だと覚える時の場所の順番と実行時に思い出す場所の順番が逆向きになるので違和感があるのですが、トップ層はそうでもないようです。トップ層がやっていることを信じましょう。これは私にとって伸び代です。

バッファは X:Ubl, W:FUr, C:UFRです。

3-styleを覚え始める前に、BLD Buffersでバッファの採用率を確認し、BLD algs collectionで誰のどのバッファの手順が公開されているかを確認してバッファを選ぶとよいと思います。2021年12月現在では、コーナーUFR、WエッジUFrは疑いの余地が無いですね。Xセンターについては、UblとUbrで分れている一方でWRホルダーのStanley Chapel選手は単独でUfrを選択しているため、何を選べばよいか難しいかもしれません。

私のバッファは、実質的に*1Graham Siggins選手のバッファと合わせています。

手順もほぼ100%Graham選手の手順を使っています。 Graham選手のYoutubeチャンネルは動画の投稿数が多く、また、丁寧にreconstructionをコメントで残してくれるので勉強しやすいです。

分析

メガネを外してタイマースタート。

分析の基準面は、手数が多くなりがちなD面が埋まるように決定し、その後側面を決定します。

期待値としては、7~8文字ぶんが正しく埋まっているとのことです("Most common best # of 4BLD centers solved" problem)。 しかし、6,7文字埋まっていることが分かったらbetterな基準面を探すことはせず、キッパリと探索を打ち切ることが重要だと考えています。少しでもためらいがあると分析を始めてからもそのことがチラついて失速しがちです。

Xの分析時には指押さえています(4BLD入門(Y.Yさんからの寄稿) 参照)。

Xセンターの分析では以下の優先順位でステッカーを巡ります。規則的なほうが、どこまで分析したかを把握しやすいです。規則的であれば、私と全く同じにする必要はありません。

Xセンター分析の優先順位

例外としては、U面が全て埋まってしまいそうになった時は優先順位を崩してそれを回避します。 序盤からU面ステッカーを避けておくとU面が埋まるのを高確率で回避できますが、回避を意識しすぎると優先順位から外れすぎてしまい、どこまで分析したかが分かりにくくなるなるため、終盤のみで回避を意識しています。

W分析は2ループ目をできるだけUBrステッカー(UFrバッファの人ならBUr)から始め、MBLDのテクニックであるweak-swapと似たような感じでUBrステッカーを後回しにしています。こうすると、Wパリティがある場合にUBrにセットアップする必要がなくなるため、数手得すると思います。

交換分析はしていません。もしやるならCを最初に分析する必要がありますが、 Cは文字数的に音記憶で最後に分析したいのと、交換分析でCパリティをスキップできるとしても、そのために文字数数えるためだけにCを分析していたらタイムに本末転倒だと考えています。

記憶

前述の通りCは音記憶で、他のパートは場所法を使っています。1プレイスに2イメージを置いています。レターペアはほぼ全て 手で触ることができるようなイメージ にしており、形容詞や動詞のレターペアは使っていません。1プレイス内の反転防止のため、「まず1イメージ目がプレイスの床に接する形で有って、次に2イメージが飛び込んでくる/上に乗っかってくる」ということを原則として場所に置きます。

試技の時に想起できなかったレターペアは、よりイメージしやすく・より区別しやすいイメージにどんどん入れ替えていきましょう。ここで、言葉としてのレターペアの作りやすさとイメージのしやすさは一致するとは限らないことに注意が必要です。私の場合は、「すし」のレターペアは「寿司」一択だと思っていましたが、実際の試技だと思い出せないことがよくありました。そこでドラゴンボールの「四神球」(オレンジの丸い球)に変えたらイメージしやすくなったという経験があります。

新しいレターペアに変えて悪化してしまったら戻せばいいだけなので、ミスが多いレターペアは気軽に変えていきましょう。 レターペアの定着のためには、hinemosのレターペアクイズ機能を使っています。

4BLDと5BLDの記憶パートで、復習はしていません。実行時間(=保持する必要がある時間)が短い前提で、かつ具体的で紛らわしくないイメージを場所に置いていれば、復習せずとも正確に想起することができます。

練習したいのに場所が無いなんてことが無いように、場所はたくさん作っておきましょう。 私の現在の場所の量は3x3キューブ96個ぶんです。私は一度使った場合は次の日は使わないようにしてゴーストを消しているため、1日あたりで48個ぶんの場所が使えます。 私の場所の作り方は MBLDを毎日やるためのゴースト対策 で説明をしています。

また、私は記憶の練習のため、メモリースポーツ(記憶力競技)にも取り組んでいます。 Speedcubing Advent Calendarの対象である「Speedcubingに関連する記事」から離れてしまうので詳しくは書きませんが、主にMemoryLeagueで画像の順番記憶を、hinemosでトランプ記憶を練習しています。

画像の順番記憶をするとイメージを言語化せずに場所に置くことの練習ができ、場所法という要素のみを集中的に鍛えることができます。

トランプ記憶は5BLD相当の数のイメージをスムーズに変換して場所に置いていく訓練になります。4BLDや5BLDよりも競技者数が多く、SCCという大会が隔月ペースで開催されているため、モチベーションを保ちながら練習しやすいと思います。

以上、メモリースポーツの話でした。

実行

X, Wは3-style、CはOrozco methodです。Cで3-styleが使えていないのは明確なロスですが、Cが全体に占める割合がそれほど大きくないのでとりあえずはなんとかなっています。3BLDでも使うのでそう遠くないうちに使えるようにしておきたいです。伸び代です。

3-styleが思い出せずに回せない場合、以下の解法を使います。

前に実行はC→X→Wの順と書きましたが、CやWがパリティの場合は

C(1文字残し) → X → W → Wパリティ → C1文字 → Cパリティ

となります。

WパリティはStanley Chapel選手のBetter Wing Parity

UFr BUr: l' U2 l' U2 M' U2 l' U2 l U2 r' U2 l2

の手順を使っています。

今年の夏に同じくStanley Chapel選手がHow to Solve Wing Parity Efficiently in BigBLDという動画が公開しているので、こちらも参考になると思います。

nod-don(首振り)はしていません。伸び代です。

3-style

WとXは4BLDの実行時間の多くを占めるので優先的に3-styleを覚えましょう。CはSub4分までなら不要のようです。

WとXのどちらから覚えるべきかについては、人それぞれだと思います。

Wは3BLDのエッジ3-styleの考え方を適用しやすいので、エッジ3-styleを知っているなら入りやすいと思います。

一方、Xは440手順、Wは506手順なので、Xのほうが覚えやすいかもしれません。

Xセンターについてはセットアップで他の手順に持ち込みやすいため、セットアップを多用して覚える手順を最小限しようと考えていたことがあったのですが、それは正しくはなかったと思います。実際にはXセンターの全手順を巡ったらSub4分が出たので、大会直前じゃない限りは手順増やす方向で考えたほうがよさそうだと思います。3-style手順を回せたらもちろん速いですし、手順の練習時にレターペアと紐付けておけばレターペアの定着にもつながって記憶も速くなります。

3-styleの練習は2020年版・挫折しない3-style習得法 with hinemosの方法でやっています。

指遣い

u, u'はそのまま単層回しで、それ以外は2層回しを使用しています。 dの親指プッシュは使っていません。

  • d → D' Dw
  • d' → D Dw'
  • r → Rw R'
  • r' → Rw' R
  • r2 → Rw2 R'2 (もしくは「Ishaan M2」: R' Rw r)
  • l → 3Rw' Rw
  • l' → 3Rw Rw'
  • l2 → 3Rw'2 Rw2
  • f, b → 不使用 (Stanley Chapel選手は使っています…)

左手はキューブをD面で掴んで支えるために使い、D面以外の回転は基本的には右手で行います。

ただ、これは回転時に片方の手首を固定するという意味ではありません。 dを左手だけでD’ Dwすると合わせて片手だけで合計90+90=180度ぶん回転させる必要があるのに対し、右手と左手で (左手D’ 右手3Uw) (左Dw 右Uw') すると両手で分け合えるので理想的には45+45=90度ぶんの時間で済むと思います。

d回転を含む Ubl Fdr Ldf [r U2 r', d] の指遣いはこのようにしています。dやd'の回し方に注目してください。

www.youtube.com

Graham選手の指遣いも見てみましょう。5BLDの動画から取ってきていますが、おそらく4BLDと指遣いは変わらないと思います。Youtubeのサイト内でスロー再生するのをオススメします。

  • d’を左手D Dw’としています(2:18)。

https://www.youtube.com/watch?v=glwHmvyK2c4&t=135s

  • 手順によるかもしれませんが、u2は左手でu’ u’しています。 [L 2u : [r’ U2 r, u’]]

https://www.youtube.com/watch?v=7eGFKJvtXAA&t=29

  • d2はD’ Dw D’ Dwで回しているようです。 [F : [r U2 r’, d2]]

https://www.youtube.com/watch?v=7eGFKJvtXAA&t=34

試技の練習

PB表を管理しつつ、パート練習と全体練習を行いました。ラッキースクランブルでのPBに関する考えは、ソルブ回数を自然と増やせるように、練習でのラッキースクランブルに対する考え方などを変えたに書きました。

パート練をする→PB出る→全体も伸びるはずだから回数を重ねるモチベーションにつながる→全体でPB出る→全体練習で伸びたということはパートに絞ればもっと速くなるはず→最初に戻る

のようなサイクルが成立すると楽しいです。 サイクルが止まったら手順を増やしたりレターペアを見直したりするタイミングかもしれません。

ソルブのモチベーションを上げるためには、SpeedSolving.comのWeekly Competitionに参加してみるのもよいと思います。大会のように、与えられた3試技で結果を残す練習になると思います。

試技の前には、効果があるかわかりませんが、おまじないとして試技の前に速い人の動画を見て脳内のスピード感のイメージを高めたり、メトロノームをtps4のペースで鳴らしたりしていました。

おわりに

色々なことを盛り込んだのでスッキリはしていない文章となってしまいましたが、この記事で非公式6分台の方々のモチベーションと希望につながれば幸いです。

reconstructionはalg.cubing.netが使えなくなった時に備えてこのブログにも貼っておきます。長いので畳んでおきます。畳めていませんでした…

*1:実質的にと書いたのは、WエッジについてはFUrで、UFrではないですが、パーツの動きは同じであるためです。UF/UFRバッファ(およびFU/UFRバッファ)のメリット参照。

続きを読む

トランプ記憶: SCCで平均記録を残すためにやったこと

こんにちは、酢酸ことSakakiです。先日行われたトランプ記憶の大会の城南 Speed Cards Challenge 2021で最初の4試技を成功して、失敗の300秒を含まない平均記録を残すことができました。

その前に最後に自己ベストを出せたのは2020年2月の三鷹SCC 2020で、それ以来1年半以上、6大会に渡って記録更新できない状態が続いていました。

私の問題点は以下の2点でした。

  • イメージが雑になっていたこと
  • 苦手要素に着目せずに万遍なく練習していたこと

この記事ではこれらの私の失敗談について話しつつ、今回の成果を出すに至った練習法を紹介します。

この記事でも何度か引用しますが、まずは平田直也選手のトランプ記憶でタイムを縮めるアドバイス11選を読んでもらうと、私がいかにマズいことをしていたのかが鮮明になると思います。この記事は前に何度も読んでいたはずなのに、いつの間にか自分が全くこの内容に沿わないことをやっていたことに気付いた時には愕然としました。

前提: 私のシステムは1カード1イメージの2in1

失敗の話に入る前に、私が使っているシステムについて説明しておきます。

私は1カード1イメージ、1プレイスに2イメージ (2in1) で覚えています。イメージ数は52、1枚目と2枚目のイメージの仕方が違うので、それを区別して数えるなら104イメージです。

1カード1イメージの2in1はイメージの入れ替わりがPAOなどのシステムに比べて相対的に起こりやすいのは事実ですが、イメージの仕方を工夫すれば今大会の私のように入れ替わりを起こさずに平均記録を残すことができるということは強調しておきたいです。

私は場所を思い浮かべた後、「まず1枚目のイメージがその場所に接地していて、その上に2枚目のイメージが乗っかっている」という情景を基本にしてイメージしています。このようにすると、同じペアでも前後が入れ替わるとイメージの上下関係が変わるので、この原則の通りに場所に置けていれば入れ替わりは発生しません。

この記事は入れ替わりには困っていない前提で他の要素に関する練習法を書きますが、もし入れ替わりで困っている場合は、上記のようにイメージの仕方を工夫してみてください。

それでは、私の失敗の話に移りましょう。

失敗していたことと、それへの対応

失敗1: イメージが雑になっていたこと

私は過度に変換練習を重要視していて、練習時間の大部分を変換練習に使っていました。

その結果として変換練習のタイムは縮まったのですが、以下のような状態になっていました。

  1. 変換タイムの短縮だけを意識する
  2. 変換練習には回答フェーズというフィードバックが無いので、イメージが雑になりすぎていることに気付けない
  3. 雑なイメージでのスピード感に慣れてしまう
  4. 記憶練習でも雑なイメージでのスピード感でイメージの思い浮かべが充分ではない状態のまま次に進んでしまい、記憶に残らない
  5. 52枚パーフェクトの割合はたった14%くらい
  6. 稀にまぐれ当たりのような感じで速いパーフェクトが出る

稀にまぐれ当たりのような感じで速い記録が出てしまうのが曲者で、ギャンブル的な達成感と妙な成功体験を生んでしまっていました。 イメージを思い浮かべていたとしても思い出せなければ意味がなく、思い出せる強度であることが必要です。変換練習を「思い出せない強度で想起する練習」にしてしまうと、「思い出せるギリギリの強度で先に進む」のがどんどん下手になってしまいます。

大会でも記録が残せるならいいのですが、先述の通り大会では失敗が続いていました。ここで、大会で結果を残すために必要な成功率について計算してみましょう。

1試技の成功率をpとします。大会の5試技の中で少なくとも1回成功する確率は、1から「5試技で全失敗する確率」を引けば求めることができるので、次のようになります。

1 - (1 - p)5

では、この確率が90%以上になるには成功率pは何%以上必要でしょうか? いくつかのpで試していけば分かりますが、答えは37%です。私の練習での成功率は14%だったので、以前の私は失敗すべくして失敗していたことになります。

この37%という数字について、一体どのくらいの雑さなら許されるのかを少し考えてみます。

例えば、2in1で1つのプレイス内での順番がA-BなのかB-Aなのか分からなくなってしまったケース*1を考えましょう。この時、2枚の順番が運任せになるので、成功率は50%です。37%よりは大きいですね。

同様に、A-B、C-Dのように1プレイス内でのペアの順番には自信があるが、どのプレイスだったのかが分からないケース*2も、50%の運任せになります。

では、3枚もしくは3ペアの順番が分からなくなった場合は? 3 * 2 * 1 = 6通りのパターンのうち正解は1つだけなので、16.7%の運任せになります。50%からはガクッと下がって、37%を下回ってしまいました。

このように、5回に少なくとも1回成功するには、順番に全く自信がない札を2枚程度にする必要があります。想像していたよりも少ないでしょうか。失敗覚悟で急ぐことを「攻める」と言ったりしますが、それでも5回中1回成功させるにはこのくらいの精度が必要なのです。

トランプ記憶でタイムを縮めるアドバイス11選 によれば、

アドバイスっていうか当たり前なんですが、場所に強く置きます。具体的な数字で言うと、リコール(解答)の時に、場所からすぐにイメージが思い出せるのが8割以上になるようにしましょう。

とのことです。8割ということは52枚中42枚で、自信がある札を埋めていって10枚が残った状態ということですね。

失敗2: 苦手要素に着目せずに万遍なく練習していたこと

私は、以前は変換練習でも記憶練習でも、52枚を万遍なく練習していました。 これでは練習時間の大半を得意~普通の札の練習に使うことになり、効率が悪いです。苦手な札に絞って変換練習・記憶練習をすることが重要です。

苦手なイメージの改善については、 トランプ記憶でタイムを縮めるアドバイス11選の「アドバイス③:その時一番苦手な変換を改善していく」の節で説明されているので非常に参考になります。

上記の記事で、

常に「今一番苦手なカードを相対的に探し、得意に変える」という意識を持つと成長が途切れません。

というアドバイスがありますが、私は自分が一番苦手なカード (遅い or よく間違える) を知るために、拙作のhinemosというツールを使って練習しました。無料です。

hinemosの機能

hinemosはスピードカードの画面から、変換練習と記憶練習をすることができます。

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スピードカード練習の設定画面

試技の結果は試技ごとの結果確認画面で確認することができます。この画面では、52枚全体のタイムや各札の正誤だけでなく、それぞれの札にかけた時間が確認できるため、自分の苦手な札を知ることができます。

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記憶/変換練習の結果画面

また、試技を横断した統計情報を確認することもできます。このページでは任意の期間に行った変換練習・記憶練習の札ごとの平均タイムや正解率や練習回数などを確認することができます。この画面も、記憶に時間がかかる札や紛らわしくて間違える札を知るために役立つと思います。

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統計情報ページ

試技を横断した統計情報のページでは、他にも様々な情報を確認できます。 Top 5 Scoresについては細かい仕様があるので、ここで説明します。

  • 4分以内*3に回答して52枚パーフェクトを取ったタイムのTop 5を確認できます
  • スコア計算はMemory Leagueとほぼ同じです
  • ただし本家とは異なりマイナスの点も計上するので、まだ60秒以内に記憶できない競技者もスコアの向上を実感できます

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統計情報ページ:試技のタイム情報

苦手な札の練習方法

さて、苦手な札の練習方法の話に移ります。 練習の設定の画面で、指定した期間で「記憶が遅い」「変換が遅い」「正解率が低い」「出現していない」札に絞って練習することができます。私は練習の枚数は「6枚ずつ」として、2枚ペアなので12枚が出題されるようにして練習をしました。52枚のうちの12枚なので、約25%に絞って練習するわけですね。

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苦手に絞って練習

まずは、苦手なイメージに絞った変換練習を5~10回ほどして、イメージを頭の一時領域に乗せます。この時点でやけに遅いイメージがあったら、イメージ変更を試みます。 私はこの2ヶ月弱で52枚中10枚のイメージを変更しました。

イメージを変更していて思ったのは、語呂合わせが思い付きやすいからと言って覚えやすいとは限らないということです。例えば、スペードの4のイメージを「ス」ペードの「し」ということで「寿司」にしている方は多いかもしれません。スペードの4が得意ならよいのですが、私にとってはうまくイメージできずによく間違える札のひとつでした。最初は練習回数が足りないだけかと思っていましたが、苦手な札に絞って練習回数を増やしても改善しなかったので思い切ってイメージを変更したところ、正解率を大きく向上させることができました。

イメージ変更をしつつ、しっくりくるイメージを頭の中の一時領域に乗せ終わったら、記憶練習をします。苦手に絞った記憶練習の際は、以下のことに注意しました。

  • 12枚パーフェクトを目指す
  • リコールは場所から思い出す
    • 12枚なので消去法ができてしまうが、それだと意味がない
  • 自信が無い札は勘で答えずに無回答にする
    • 正確に記憶できていないのは変換イメージが良くないというサインなので、そのサインを握り潰さないようにする

本番よりも少ない12枚の練習で効果があるのかという疑問を持った人は、こう考えてみてください。

  • 52枚でパーフェクトするには、より少ない12枚でパーフェクトできることが「必要」です。
  • 52枚で5分間記憶を保持するには、より少ない12枚で、試技の直後に記憶を保持できていることが「必要」です。

まずは必要条件を満たしに行きましょう。

実戦練習

苦手練習を繰り返して充分に技能が向上したら、52枚全体での実戦練習に移ります。

私は、このフェーズに移るための判断基準として、Top 5 Scoresを更新できそうかどうか、すなわち、

(各イメージの平均タイムの52倍) < (Top 5 Scoresの5番目のタイム)

であるかどうかで判断しました。

苦手な要素に絞って反復練習をすることや、苦手要素を充分に練習した後の技術の統合については、成功する練習の法則 最高の成果を引き出す42のルール (日本経済新聞出版)が参考になります。

大会2週間前くらいからやったこと

苦手練習よりも、大会での形式を意識して練習に時間を割きました。具体的には、1日の中で52枚の試技を極力5試技、リアルトランプでやるようにしました。 試技の際には、速いタイムを狙うことよりも成功させることを意識しました。

「実力的に実際に出せそうなタイム」よりも速いタイムを本番で出そうとすると、緊張につながります。今大会では平均を狙っていたので、私はhinemos統計ページで直近1ヶ月の記録に基づいた「average of 5の期待値」を確認し、自分のタイムが122秒程度*4であることをあらかじめ自覚していました。

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average of 5の期待値

自分の経験として、自分の力を過大評価してしまうことが多く、「統計的に出せそうなタイム」と「感覚的に出せそうなタイム」を比べると、「感覚的に出せそうなタイム」のほうが速いことが多いです。「感覚的に出せそうなタイム」は実際には出ないことが多いので、「なぜかうまくいかない」という思いに囚われることがありますが、思い込みはよくありません。数値を見ましょう。

大会当日にやったこと

行きの電車で、「9/23から9/23に『出現していない』」イメージに絞って変換練習を行うことで、全てのイメージを網羅しました。

その上で、「記憶が遅い」イメージや「変換が遅い」イメージの変換練習を繰り返しました。

9/23の変換練習は合計で1458イメージでした。各イメージでの回数は、少ないものだと2回、多いものだと52回(!!)でした。

変換練習だけだとこの記事で話してきたように空回りする可能性があるので、大会で使わない場所*5を使ってhinemos上で試技をして、具合を確認しました(2試技)。

大会の試技では、タイムは全く意識しませんでした。これは単にタイムを見ないという意味ではなく、2分以内に収めようとか、52枚のうち前半のイメージでちょっと詰まってしまった時に後半で挽回しなければとかも、考えていませんでした。 タイムを見ないことについては、【トランプ記憶初心者必見】トランプ記憶でやってはいけないこと3選(youtube)で言及されていますね。

事前にどのくらいのタイムが「統計的に」出せそうかは確認済みです。統計を信じましょう。 結果的には平均115.61でBランクを取ることができましたが、2分以内に必ず収めようと思っていませんでした。タイマーを止めた時に何秒になっているかは、祈りです。タイムを意識して無理に急ぐと、イメージが浮かび上がる前に次の札に進んでしまうことが増え、失敗します。

まとめ

hinemosを使って、苦手なイメージに絞って、イメージが雑にならないように記憶練習を中心にして練習したらうまくいきました。

謝辞

この記事の出発点である自身の問題点を知ることができたのは、yas選手のおかげです。城南SCCでも口頭でお伝えましたが、ここで改めて謝辞を申し上げます。ありがとうございました。

おまけ: Stats

人それぞれの技能によって必要な練習量は変わりますが、参考程度に 私が練習方法を変え始めた8/5から大会前日の9/22までの統計情報を貼っておきます。

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*1:根本的には、前に述べたようにA-BとB-Aでイメージの仕方を変えるべきです

*2:イメージする時の場所との結び付けが弱いということですね

*3:Memory Leagueの仕様に合わせています

*4:リアルトランプなので、さらに遅くなります

*5:前日に使った場所を全く使わない前提で、2021/09/26現在、1日に使える場所はトランプ記憶12試技ぶんです。つまり、7試技ぶん余裕がありました

3BLDのサブステップを紹介する:「LTCT」

こんばんは、酢酸ことSakakiです。

Twitterで公開された知見や流行ったワードを記事にするシリーズ、今回のテーマは「LTCT」です。私自身が活用できている技術ではないですし、これはとりあえずどんなものかを知ってもらうための記事なので、端的にまとめます。*1

はじめに

LTCTとはLast Target + Corner Twistの略で、 3BLDコーナーのパリティ1文字と1COを同時に処理する 手順です。

つまり、こういうことです。

alg.cubing.net

f:id:sak_3x3x3:20210401002305p:plain

具体的な手順については、末尾の関連リンクから手順表を見てみてください。

通常のやり方として、パリティ+1COをパリティ手順+CO手順で解くなら、

約15手 + 約16手 = 約31手。

COをループに絡めて3-style+パリティ手順で解くなら、

約12手 + 約15手 = 約27手 で解決できます。

一方、LTCTは 約13手 なので、 手数を節約することができる のがメリットです。

ただし、メリットが明快な一方で以下の2点が難しく、簡単にタイムを短縮できるわけではありません。

  • 判断が難しい
    • ちょっとでも迷うと、手数の節約によって縮めたタイム以上に時間を使うことになってしまう
  • 手順に規則が無く、覚えにくい

手順数

全パターンは252手順です。

パリティ(7*3)手順 * COの位置6ヶ所 * COの回転方向(時計/反時計)2通り = 252手順

ただし、UFRバッファとインターチェンジしやすいU面ステッカーからループを始めるようにすれば、ループの最後の文字はU面のどこかに限定することができるので、優先的に覚える必要のあるLTCT手順をU面パーツのパリティ手順のみの 54手順 に限定することができます。

U面パーツパリティ-U面CO (U-U)

(3 * 3) * (2 * 2) = 36手順です。

U面パーツパリティ-D面CO (U-D)

U-Uと違ってD面は自由にセットアップすることができるので、覚える手順を減らすことができます。

D面COをどれかに固定して考えて、

(3 * 3) * (1 * 2) = 18手順

です。

大まかな出現確率

Twitter: @ms3bfさんにツールで計算してもらったところ、パリティ+COの出現率は16%程度の確率とのことです。

U-U, U-DのLTCTになる確率は、パリティのステッカーの確率が同様に確からしいと仮定した場合には 16% * 3/7 = 6.8% です。

実際には、ループの開始ステッカー(=終着パーツ)は自由に選べるので、U面からループを始めることで確率をより上記よりもさらに高めることができます。

練習方法

私自身はLTCTを練習したことがなく、練習方法がパッと思い浮かばなかったので、 Twitter:@keit_cubeさんが練習した時のやり方を教えていただきました。

keit_cubeさんのやり方

ここから引用です。


1. 手順集め

まっさんさんの動画や手順表、Jack手順表、Max手順表から手順選定して自分の手順表作成

2. ひたすら回しこむ

CFOP手順と同じように手に覚えさせました。F2L+3styleやF2Lスロットの出し入れのような仕組みになっている手順が多いので手に馴染む動きが多いかもしれません。

ぼくはLastTarget 1文字ずつ覚えていきました。全部*2覚えたあと、ランダム出題のプログラムを書いたのでそれで練習中です


ここまで引用でした。

将来:hinemosに実装します

LTCTを取り入れている/取り入れようとしている人は2,3人くらいしかいないと思っていたのですが、アンケートを取ってみたところ、LTCTの機能が欲しいという選択肢に6票入っていて、思ったよりもLTCTの練習機能が求められていることが分かったのでGWの時間を使って作ろうかと思います。完全に新しい機能で時間がかかりそうなので気長にお待ちください。

関連リンク

keit_cubeさんの挙げていた手順表を含め、リンクはここにまとまっています。

bld-life.com

謝辞

記事を書くにあたり、Twitter: @ms3bfさんとTwitter: @keit_cubeさんにレビューをしていただきました。お2人の力により、内容が充実させることができました。ありがとうございました。

square-1目隠しに関するメモ

酢酸ことSakakiです。

これまで2018年11月と2020年5月にsquare-1の目隠しの勉強をしていましたが、今回3回目の勉強で大きな進展があったのでブログに書いておきます。

この記事の目的

  • 未来の自分がsq-1 BLDを再度やる時に、記憶を取り戻しやすくする

教材

前回見ていたMike Hughey氏の解法はU-perm, A-permの3点交換をメインになっていますが、私はsq-1の経験が浅いためか、セットアップがうまくできず、目を開けてもうまく解けそうにありませんでした。

しかし、今回の勉強で、Gnarls SquanBLD Method (Square-1)のドキュメントの存在に気付いたことが、大きな進展のきっかけになりました。

Gnarls氏の解法だとJb-perm, Ja-perm, Y-permの2点交換を用いており、かつ、セットアップにM2, R2という表現を使っており、分かりやすかったです。これにより、目を開けて、解法見ながらなら解けるようになったのが今回の進捗です。

ハードウェア

これまで QiYi Square-1 QiFa (たぶん) を使っていたのですが、このたびX-Man Design Square-1 Volt V2 M (Slice&UD) Stickerless Blackを購入しました。

目隠しでsq-1の30度単位の回転をするのが不安でしたが、磁石のおかげで30度ずつの動きに手ごたえがあり、やりやすくなりました。

タイム

目を開けて解法見ながらのタイムは、36:34.03=[20:49]+15:45*1 でした。

繰り返しやればもっとタイムが縮みそうですが、満足したのでしばらくやらないと思います。

今後の展望

満足したのでしばらくやらないと思いますが、取り組んでいくならば以下のようなことを考えています。

  • 解法見ながらのソルブで、タイムを縮める
  • 解法見ながらのソルブで、メモを取らずに解けるようにする
  • 成形後の状態から、解法を見ずに解けるようにする
  • 1手成形(1通り)のスクランブルについて、解法を見ずに解けるようにする
  • 2手成形(2通り)の… (同様)
  • Gnarls氏のSingle Slice Tracingのやり方を学ぶ

ソルブの時に使ったメモ

将来、今回の取り組みの記憶を取り戻しやすくするために、ソルブの時に使ったメモを書いておきます。

※ 印を付けたところが工夫点です。

分析と記憶はHughey氏のやり方、実行はGnarls氏のやり方。

ナンバリングは、
 
あ (あ) い
(え)     い
 え  う  う

か か き
け    き
け く く

※ カンニングありで解くなら、ナンバリングはひらがな、ヘルパーや変換マトリクスのようなキューブの位置に関する情報はアルファベットを使うようにすると、これらの混同が防げそう。
※ カンニング無しなら、ヘルパーや変換マトリクスを覚えないといけないので日本語のほうが馴染みがあってレターペアを作りやすく、覚えやすそう。まずはアルファベットのままで仕組みに慣れて、本気で覚える時には日本語に置き換えればよい?
※ 3BLDのコーナーナンバリングだと「らさあたなかはま」となるが、変換マトリクスを読みやすくするために、sq-1用のナンバリングにしたほうが良さそう

スクランブル
(3,-1)/ (0,3)/ (-3,-3)/ (4,-2)/ (-3,0)/ (-3,-1)/ (0,-3)/ (5,-2)/ (6,-2)/ (-3,-4)/ (-4,-2)/ (0,-5)

上 11100100 "1110" +0 "P"
下 11001010 "1100" "V"
→ スクランブルは "PV"

スクランブルパターン "PV" はHughey氏のページに載っているので、上下反転の/6,6/6,6は不要

ヘルパーはAH

上下の面のヘルパーから順に辿って、スクランブルされたパズルのパーツの位置に名前を付ける。
上面 ACEghIkl
下面 mNPrsTvW

※ ここ、コーナーパーツを大文字、エッジパーツを小文字で書くと分かりやすいことに気付いた。

エッジからいこう。
変換マトリクス rk lh gm sv

※ これも、小文字に直している。

(え)→h→あ→r→い→k→か→g→き→m→(え)
あいかき
う→l→く→s→う
あいかき、うくう

「け」が無いが?
け→v→け OK


次、コーナー。
再掲
ACEghIkl
mNPrsTvW

CI WP AE NT
(あ)→C→う→W→(あ)
い→I→く→N→え→P→き→E→か→A→い

う/いくえきかい/

「け」が無いが?
け→T→け

エッジ
あい アイマスク
かき 花京院
うく ウクレレ
うあ ヴァイオリン

※ 最後の「うあ」、UF/UFRのMBLDの分析でのパリティ処理のように、奇数文字で終わったので最後に「あ」 (UB) を付けて副作用のコーナー交換を偶数回で打ち消しつつ、コーナー手順でUB<=>ULが入れ替わることを期待している。
※ パリティ判断の時はエッジ奇数文字+コーナー奇数文字 = パリティ無しと判断するので注意。

コーナー
うい ういちゃん
くえ クエリちゃん
きか GiiKer
い 囲碁盤

*1:実行は、回し間違えて、いったんソルブ→再スクランブルした時間を含む

Twitterで突如流行ったワードを紹介する:「フローティングバッファ」

こんばんは、酢酸ことSakakiです。

Twitterで公開された知見や流行ったワードを記事にするシリーズ、今回のテーマは「フローティングバッファ」です。私自身が活用できている技術ではないですし、これはとりあえずどんなものかを知ってもらうための記事なので、端的にまとめます。

はじめに

ひとまず、Cube Voyageの BLD用語集 | Cube Voyage から引用します。

Floating Buffer(マルチバッファ)
バッファを一箇所に定めず、場合により別の場所をバッファとして用いる解法。海外ではFloating Bufferと呼ばれるが、日本ではマルチバッファと呼ばれることが多い。

バッファが最初から揃ってしまっている場合やループが細かく切れている場合などは、マルチバッファを用いれば実行の量を減らせるというメリットがある。しかし、その分記憶と実行が複雑になる。

また、解法によってはシステム上そもそもマルチバッファが使用不可能なものもある。

上記の通り、フローティングバッファのメリットは 実行の量を減らせる ことです。また、言い換えになりますが、覚えるべき文字数を減らすことができます。これにより、音記憶がしやすくなる可能性があります。

デメリットは、 記憶と実行が複雑になる ことです。具体的には、記憶はどのバッファでの文字列かを覚えおく必要性が生じること、実行は使えるようにしておく必要のある手順数が増えることが難しい点です。

この記事では、以下のサンプルスクランブルを通して、フローティングバッファを行う際の分析と実行が具体的にどうなるのかについて説明します。

スクランブル

[y2 x':[S, R'F'R]] [R'FR, S]

結論としては、このスクランブルは通常の解法だと6文字(3手順)なのに対し、フローティングバッファを使うと4文字(2手順)になります。

alg.cubing.net

f:id:sak_3x3x3:20210321225510p:plain

通常の解法

比較のため、まずは通常の分析をしてみましょう。バッファはUFとします。ナンバリングは私のものを使いますが、重要なのはナンバリングそのものではなく文字数なので、読む上ではあまり支障はないと思います。

分析

最初に、UFを見て、UL(ち)、RU(い)と進み、UFバッファの白緑に到達したので1ループ目が終わります。

次に、どこかからループを始めますが、説明の都合上UBステッカーから始めます。

UB、FL、RF、UB。私のナンバリングでは「すたあす」となります。

よって、このスクランブルは「ちいすたあす」の6文字であることが分かりました。

記憶

「ちいすたあす」の6文字を記憶します。

実行

3手順です。

  1. 「ちい」 UF-UL-RU [S, R' F R]

  2. 「すた」 UF-UB-FL [L U: [S', L2]]

  3. 「あす」 UF-RF-UB [U': [L E' L', U2]]

フローティングバッファを使った解法

この例では、通常バッファUF、フローティングバッファUBとします。

分析

1ループ目は通常バッファ(UF)から分析するので同じです。

「ちい」

1ループ目が終わった時、パリティが無いスクランブルで以下の条件を全て満たしている場合にフローティングバッファを利用できます。

  • それまでに分析した文字列が偶数文字である
  • それまでの分析のバッファと同じ向きでループが終了した

もし「同じ向き」という表現を初めて見たのでしたら、以下の記事を読むと理解が深まると思います。

DBのEOに気付くためのねじれ合わせ分析 - おもにBLD

なぜバッファと同じ向きである必要があるかは、少し長くなるのでこの記事の最後に書きます。また、パリティの場合にフローティングバッファを使う時の注意も、記事の最後に書きます。

Exampleの分析に戻りまして、次に、UBをバッファにして分析します。UBの位置にあるステッカーはFL「た」、「た」の位置にあるステッカーはRF「あ」、「あ」の位置にあるステッカーはUB(バッファ)。これで2ループ目が完了です。

最終的に、分析文字列は

「ちい」

(UBの)「たあ」

の4文字になりました。通常時に比べて、新ループの開始時と終了時に加えていた文字が無いので2文字ぶん削減できています。

以上を図で表すとこうなります。

f:id:sak_3x3x3:20210323005709p:plain

記憶

「ちい」

(UBの)「たあ」

「たあ」はUBバッファであることを覚えておく必要があります。

実行

  1. 「ちい」 UF-UL-RU [S, R' F R]

  2. (UBの)「たあ」 UB-FL-RF [L' U' L, E']

もしくは、フローティングバッファはループが独立しているので、フローティングバッファのループから実行することも可能です。

  1. (UBの)「たあ」 UB-FL-RF [L' U' L, E']

  2. 「ちい」 UF-UL-RU [S, R' F R]

有識者として、まっさんさんのツイートを引用します。

手順数

通常のエッジ3-styleが22 * 20 = 440 手順なのに対し、エッジフローティングバッファ用の2つ目のバッファの手順は20 * 18 = 360手順です。

以下同様に、バッファを増やすたびにそれまで学んだバッファ絡みの手順は学ばなくてよくなるので、追加で覚える手順数は少なくなっていきます。

f:id:sak_3x3x3:20210321232241p:plain

コーナーも合わせると、全手順数は2768手順です。数だけを見ると膨大ですが、3-styleは理論と規則性がありますし、U面バッファの手順はお互いに似ている部分があるので手順数から受ける印象よりは楽かもしれません。

また、フローティングバッファとして使えるかは置いておくと、BLDでバッファ移行を経験した人は2つのバッファの手順を覚えたことがあるわけで、440 + 360 + 378 + 270 = 1448 手順は覚えたことがあるという計算になります。

実際にはU面を優先してフローティングバッファを増やしていくべきなのでDF手順をいきなり全部使えるわけではないですが、手順数の経験だけ見ると、フローティングバッファに必要な手順数の半分の数を手順を覚えてきたことになります。バッファ移行を経験した方々、なんだかいけそうな気がしてきませんか。

ちなみに、まっさんさんは2200/2768手順くらい覚えているとのこと。さすがですね。

なお、speed-optimalを追求しないならば、そうでなければ既に知っている手順を別のバッファの手順として使うという手もあります。例えば、UFの3-styleを知っていれば、UBはU2、DBはM2、FRはxy持ち替えをすればよいです。

練習方法

hinemosをぜひご利用ください。

2020年版・挫折しない3-style習得法 with hinemos - おもにBLD

関連リンク

以下のリンクからいくつかの動画や記事に飛べるのでより詳しく知りたい方はそちらをご覧ください。

bld-life.com

おわりに

フローティングバッファのことがわかりましたでしょうか。手順を増やせば増やすほど速く解けるようになるのはスピードキューブの基本原理ですし、もし分析・記憶での伸びに停滞を感じたらフローティングバッファを導入するのが一つの手かもしれませんね。

なお、私はそもそもFU/UFR手順をまだ全てに覚えていませんし、それが終わったとしても5BLDの 3-style 2204手順*1を優先するので、少なくとも当分の間はフローティングバッファを導入する予定はありません。

謝辞

記事を書くにあたり、Twitter: @ms3bfさんとTwitter: @SqUarE_3BLDさんにレビューをしていただきました。私自身がフローティングバッファをやっているわけではないため抜けていた観点があり、レビューによりいくつもの気付きを得ることができました。ありがとうございました。

補足

補足1: ループ終了時のバッファの向きが重要な理由

フローティングバッファを使える条件の1つである、「バッファと同じ向きでループが終了した」という条件について、理由を説明します。

もしバッファと違う向きで終了した場合には、そこまで実行が終わった段階で元のバッファがEO反転した状態になります。

必ずEOは偶数個出現するので、元々EOの無いスクランブルの場合、元のバッファがEO反転した状態でフローティングバッファを実行すると、フローティングバッファもEO反転します。

そうすると、本来やる必要のなかったEO解消が必要となり、時間のロスになります。これでは、何のためにフローティングバッファをしたのかわかりません。

よって、フローティングバッファをする際には元のバッファがEO反転しないでループが完了することが必要です。

補足2: 1EO

もしスクランブルに元々1EOがあり、元バッファが反転しない状態でループが完了してフローティングバッファを使うことを決断した場合、必ずEOは偶数個出現するため最終的にフローティングバッファがEO反転した状態で終わることになります。

これに対処するには、フローティングバッファ絡みのEO手順を覚えておくか、あるいはフローティングバッファの分析の中でEOを挟み込んで、3-style1手順ぶんの追加で解決すればよいです。

EO挟み込み*2については、以下にリンクがまとまっています。

ルービックキューブ目隠し|EO【リンク集】 - BLDライフ

補足3: パリティがある場合

この記事で紹介したのはパリティが無いスクランブルでしたが、パリティがある場合には以下の条件が追加で必要になります。

  • エッジが交換分析済みである (= 必ず偶数文字になる)
  • コーナーのフローティングバッファをするなら、起こり得るパリティ手順(2e2c)とCO手順を使えるようにしておく (フロート先が奇数文字になったりCOが残ったりするため)

補足4: MBLDでは使えない

ECEC順で分析・実行する場合に、分析段階でパリティがあるかどうかが分からないのでフローティングバッファは使うことができません。

フローティングバッファの代わりにweak-swapを練習しましょう。このテクニックは追加手順要らずです。

weak-swapについては以下の記事で少し紹介しています。 UF/UFRバッファ(およびFU/UFRバッファ)のメリット - おもにBLD

補足5: FUバッファの場合

通常FUバッファの場合、UBパーツについては他の人と同じようにUBステッカーをバッファにしたほうがよいと思います。理由は以下の2点です。

  • BUだと背面なので分析しにくい
  • 経験のあるDFバッファからM2の関係にある

一方、U面のフローティングバッファとして、サイドのUR, ULパーツについてはUR, ULを選ぶか、FUに合わせて側面のステッカーを選ぶかは迷うところです。

FUに合わせてRU, LUを選ぶのが良さそうに思えていますが、実際に手順を見ながらFUにセットアップして考える手順とUBにセットアップして考える手順の数を比較して数値的な判断を下したいので、今は保留しておきます。

D面はM2法でやっていたDFに合わせたほうがいいので、UFバッファの人と同じくDF, DB, DR, DLでしょうか。

*1:440+440+506+440+378=2204

*2:英語では "cycle break" や "breaking method" と呼ばれています

ソルブ回数を自然と増やせるように、練習でのラッキースクランブルに対する考え方などを変えた

こんにちは、酢酸ことSakakiです。

1月の下旬から、練習でのPB (Personal Best) とソルブに関する考え方を見直していました。 1ヶ月半続けてきて成果が出てきているので、いったん取り組み方をブログにまとめ、参照可能な状態にしようと思います。

前提として、私は今4BLDと5BLDを練習しています。この記事の中で説明しているやり方は、もしかすると別の競技をする際にはアレンジが必要な可能性があるのでご了承ください。

また、このやり方は、私にとってはうまくいっているやり方というだけで、これが唯一無二の正解と主張したいわけではありません。

4BLDと5BLDを練習するモチベーション

私はBLDの種目はどれも速くなりたいのですが、その中でも特に今4BLDと5BLDに注力したいのは、まだ使えない3-style手順がたくさんあり、練習すればするほどタイムが短縮できることが明確だからです。

そして、自分が認識している伸び代を使い切ってから、ゆくゆくは速い人とハイレベルな高度な話(というか相談?)をしたいという願望があります。

課題感

BLDの分析・記憶・実行のうち、記憶についてはメモリースポーツである程度伸ばしているので、分析と実行に焦点を当てて伸ばしたいと考えています。

実行についてはhinemosの3-styleクイズをやり続ければ伸ばしていけるし、長時間hinemosで練習するのは苦にならないので時間が解決してくれる部分だと感じています。

一方、分析は実際にソルブをして練習するつもりですが、以前の自分は少しソルブをしたら満足してしまい、あまり練習回数を積み上げることができていませんでした。

つまり、ソルブの回数を増やすことが目下の課題であり、そのためには考え方を変える必要があると感じました。

考え方を変えたこと

意識的に考え方を変えたことを項目ごとに書いていきます。

パート練

【Before】

  • パート練は単なるウォーミングアップ

【After】

  • パート練のタイムは自分の得意・不得意を知るための重要な指標である
  • パートを絞って練習することで、伸ばしたい要素を集中的に練習することができる

パート練は全体練に比べて必要な時間が短いので、気軽にやりやすく、ソルブ数(分析数)を増やすことに繋がると考えています。

ラッキースクランブル

【Before】

  • 練習のラッキーケースでPB更新したとしても大会でラッキーケースを引けることはそうそう無いので、練習でのラッキーケースでのPB更新を求めていなかった

【After】

  • ラッキースクランブルでも、更新は更新
  • ラッキースクランブルの時に○○秒出せなければ、大会で○○秒出せるわけがない

ラッキースクランブルでのPB更新を重んじることで、ラッキーを引くために自然とソルブ量が増えると考えています。そして、捨てソルブをしない限り、その増えたソルブ量はタイムの底上げに繋がり、大会でのタイムを良くすることにも繋がると思います。

PBを更新するということ

【Before】

  • PBというものは練習を続けていればいずれは勝手に出るものだ

【After】

  • PBは意識的に更新を狙うものだ。毎回のソルブで積極的に更新を狙う

以前は、PBというものは練習を続けていればいずれは勝手に出るものだと思っていました。 逆に言うと、毎回のソルブでPBを更新しようという気概が無かったので、ソルブの練習効率はあまり高くなかったと思います。

PBを毎回更新しようとすることで、限界的練習*1を行うことができます。

PB管理

【Before】

  • 3BLD, 4BLD, 5BLDのような全体でのPBはツイートしていたが、一元管理しておらず、PBを正確に自覚していない状態だった
  • パート練のタイムは管理してなかった

【After】

  • 普通の種目だけでなくパート練のタイムのPBも管理し、表にまとめる

PBを表をまとめて毎日見ることで、毎回のソルブでそれを更新しようという気持ちが強まります。

PBはgitで管理しています。月イチでの表の更新ではなく、何か更新があった時にgitに更新を保存することで、任意の時点でのPB表を確認することができます。

PB_history/results at main · sakabar/PB_history · GitHub

2021/02 by sakabar · Pull Request #2 · sakabar/PB_history · GitHub

2021/03 by sakabar · Pull Request #3 · sakabar/PB_history · GitHub

更新幅

【Before】

  • 数秒だけ更新してもあまり嬉しくない

【After】

  • コンマ数秒の更新でも、更新は更新。大げさなくらい喜ぶ

4BLD, 5BLDは時間がかかる種目なので、初めのうちがはPBの更新幅が数十秒、数分など大きくなりがちです。

ですが、上達していった先には、数十秒の更新が困難になるのは目に見えています。なので、小さな更新をを大切にしていくことが重要だと思いました。これまでPBは秒単位でしか管理していませんでしたが、小数点以下も記入するようにして、小さな更新も大事にします。

コンマ数秒〜PBの1%くらいの更新幅なら現在のスキルセットでもできそうに思えることが多いので、自然と試行回数=ソルブ回数を増やすことに繋がります。

去年 Road to MBLD 20P はじめに - おもにBLD でMBLDをやっていた時は、主にキューブの成功数だけに注目していたので、挑戦個数10〜20個に応じて更新幅は5%〜10%の間。これは幅が大きすぎるし、しかも離散的なのが問題です。 こうして考えると、5,9,13,17...個のように個数を固定した時の、タイムに対する1%更新を重んじていればモチベーションを維持しやすかったのではないかと考えています。

おわりに

このやり方で以前よりPB更新の頻度が増えたことを実感しているので、このまま継続していきます。今後どこかで全くPBが更新できない月が出てくると思いますが、その時は新たな課題が発生していると思うのでその時に考えることにします。

ちなみに、2月末の時点でこのような記事を書こうとは思っていましたが、実際に書いて公開することを決定づけたのは以下のPBが出たためです。今回は練習法の話だけで4BLDのソルブの中身については触れませんでしたが、それについては別の記事にする予定です。

と思ったら、翌日に5BLDの成果も出ました。

*1:具体的な目標を達成するために行う、負荷のかかった練習。『超一流になるのは才能か努力か? 』アンダース・エリクソン、ロバート・プール、土方奈美(訳)に詳しい。

DBのEOに気付くためのねじれ合わせ分析

はじめに

みなさま3BLDを楽しんでますか。3BLDは楽しい競技なのですが、そんなBLDの中で出会いたくないものの1つとして、エッジDBパーツのEOがあります。速いタイムでソルブを完了して、わくわくしながらアイマスクを外したらDBのEOが残っていた時には、絶望感がすごいですよね。DBエッジは死角にあるので気付きにくく、最も見逃しやすいパーツです。

この記事では、そんなDBのEOに気付くための方法をいくつか紹介します。

方法1: 必ず目視する習慣をつける

簡単かつ実用的な方法として、全てのソルブで数秒かけて必ずDBパーツを目視するようにすればDBのEOには気付くことができます。

数秒が惜しくないタイム帯の人は、大会での3バツ回避の時など、必ず成功させたい時はDBパーツを必ず目視するようにしたほうがいいかもしれません。

方法2: 1ループでのねじれの把握

以下のリンクで説明されています。

ameblo.jp

PDF資料 ページ6 サンプルソルブ1

10 文字で 1 文字足らない、かつループがバッファの違う側面に行きついて終わる「ねじれループ」なのでどこかに EO があるはず。⇒DBがEO。

1ループの場合で、ループが終わった時にバッファに行き着いて終わるのか、バッファではない側に行き着いて終わるのかに着目してみましょう。 バッファではない側に行き着いた場合には、どこかにEOがあります。DB(BD)が分析に出てきておらず、かつ、パッと見える範囲にEOがなければ、DBにEOありそうですね。

方法3: ねじれ合わせ分析

「ねじれの把握」の発展形です。1ループで終わらなかった場合に、好きなステッカーから分析を始めるのではなく、ループが終わったステッカーと同じ側の側面のステッカーを選んで新しいループの分析を開始します。3ループ目以降も同様です。

f:id:sak_3x3x3:20210214172503g:plain
DFやUFと同じ側のステッカー*1

f:id:sak_3x3x3:20210214172537g:plain
DFやUFと違う側のステッカー

1ループでのねじれの把握と同様に、最後にバッファと異なる側のステッカーで終わったら、奇数個のEOがどこかにあります。

先の望月さんの講習会資料ではねじれがいくつあるかを把握して打ち消しを確認していますが、分析を始めるステッカーをループの最後に合わせて選ぶと、ねじれの回数を覚えておく必要がなくなります。

PDF資料 ページ6 サンプルソルブ2

①RF→②UR→③RD 、1stねじれループ

④UB→⑤FL→⑥FU→⑦UL→⑧BU 、2ndねじれル―プ

1ループ目の最後がバッファと違う側のステッカーで終わるので、バッファと違う側のステッカーから次のループを始めます。

①RF→②UR→③RD

④BU→⑤LF→⑥UF→⑦LU→⑧UB

UBはDFバッファと同じ側の側面なので、最終的にねじれが無いということがわかります。なのでEOがあるとしたら偶数個ですが、見える範囲にEOが無いので、DBにもEOが無いことが予想できます。

まとめ

ループを開始する時に、適当に好きなステッカーを選ぶのではなく、前のループの最後のステッカーの種類に合わせて選ぶと、最後にEOが残っているかどうかが分かります。少しでもみなさんの成功率の向上に寄与できれば嬉しいです。

おまけ: 上級者向けのTipsへのリンク

○ ねじれ合わせ分析により、EOを透視できる

× フローティングバッファと相性が悪い (リンク無し、by まっさん)

例えばUBバッファの3-styleを覚えていたとしても、ねじれ合わせをするなら開始点としてUBを選べない場合があるため。

○ 発見した奇数個のEOを、最後にEO手順で解決するのではなくループの最後に挟み込んで3-style手順1つぶんで解決

youtu.be

○ UF/UFRバッファでのMBLDで、エッジが奇数文字で最後にURを付ける際に、UF-URのEOが発生してしまうことを防げる